空が青くて涙が出るよ

ブログタイトルはビートルズのBecauseという曲からです。深い意味はありません。

自己発見と自己受容 - Fun Home

半年くらい前に観ました。

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おおまかなこと

"Fun Home"は2015年4月にニューヨークはブロードウェイにてオープンし、トニー賞12部門ノミネート、作品賞を含む5部門受賞を果たしたミュージカル。2016年9月に閉幕し、現在は米国でナショナルツアーを行っています。
このミュージカルはユニークな点がたくさんあるのですが、舞台を囲むように客席が並んでいる劇場だったのも特徴的でした。どこの席からもステージがよく見え、最前列なんて俳優と同じ目線で、手を伸ばせば触れるくらいの距離で劇を観ることができます。

 

劇場の様子がよくわかる動画

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観客席とステージの境目はあってないようなもの。

 

こんな話(劇中曲"Welcome to Our House on Maple Avenue" アリソンの台詞より)

My dad and I both grew up in the same small Pennsylvania town
And he was gay.
And I was gay.
And he killed himself.
And I...became a lesbian cartoonist.

父と私は同じペンシルバニアの小さな町で育ち、
父はゲイで、
私もゲイだった。
父は自殺し、
私は・・・レズビアンの漫画家になった。

もう、掴み、バッチリ。唐突すぎて観客席からも「え、何それ」って感じで笑いが起きるんですけど、突拍子もないようでいて実はこれ、本当の話を元にしているんです。
Fun Homeは2006年に発売された同名の漫画を原作にしています。著者はアリソン・ベクダルという人で、この漫画は彼女の歩んできた人生の回想録となっています。ミュージカルでは、父親が亡くなった年齢と同い年になったアリソンがFun Homeという漫画を生み出す過程で、父親が強い権力を持つ家庭で過ごした子供時代と自分のアイデンティティを確立し外の世界を知った大学生時代を断片的に振り返り、自らキャプション(漫画でいう四角で囲まれた説明文のようなもの)をつけて整理していく姿が描かれます。
...こんな説明で意味分かりますかね。観客は次々と過去を振り返っていくアリソンの頭の中を覗き込んでいるような感じです。ステージにはアリソンの記憶が映し出され、「今」のアリソンが過去の出来事や感情を一つ一つ解釈して漫画のコマに落とし込んでいきます。お父さんがアンティークを集めては博物館のようにしていた家、大学生の時にお父さんが送ってくれた本、ニューヨークへの家族旅行、最後のドライブ、、、様々な思い出を思い返し「あれってこういうこと?」と答えを探し出そうとします。

ちなみに"Fun Home"というのはベクダル家の経営する"Funeral Home(葬儀屋)"の家族間での愛称。とても「楽しい」とは言えない家業と「楽しい」という一言では片付けられなかった家庭への皮肉になっています。この感じちょっと映画「アメリカン・ビューティー」っぽいなと思ったり。「父親の死」という「オチ」を最初に言ってしまう構成も。まあ内容は全然違いましたけど。

 

ちょっとした感想

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上の絵は、グッズ売り場で売られていたTシャツにプリントされているもので、ショーを観た女性がアリソン・ベクダルだと思われる人物に感想を伝えている様子が描かれています。フキダシには"THAT WAS EXACTLY MY FAMILY! BUT TOTALLY DIFFERENT..."と書かれていて、もう本当にこのセリフが鑑賞後の気持ちを全部表してるな、と思いました。自分の持つ家族とは全然似てないんだけど、同時にそっくりだと共感しまるで自分の事のように感情移入してしまう、不思議な感覚に陥りました。最後劇場から出る時、年齢性別関わらず見渡す限りほぼ全ての人が目に涙を浮かべすすり泣いていたのも印象的でした。

また、悲しい話である一方で、ユーモアがふんだんに盛り込まれていて笑えるミュージカルになっていたのもすごく良かったです。後から振り返るからこそ分かる過去の自分の滑稽さとか、形は違えど誰もが経験するような恥ずかしい経験とかが笑いに昇華されていて、純粋に笑わせてくれるだけでなく、最後には「そんな自分も自分だよ」と言って受け入れてくれているような、なんだか温かい気持ちにもさせてくれました。

 

見どころ

大学時代のアリソンがとにかくかわいい。
もちろん他にも見どころ、数え切れないほどあります。でも、とにかく大学生アリソンがかわいかった。彼女をチャーミングという言葉の定義にしてもいいくらい。魅力に溢れてて人間的で、かわいい。ほんとに。

セリフの一例。

Alison: I did it!
アリソン:やったよ!
Joan: Did what?
ジョーン:やったって何を?
Alison: I told my parents.
アリソン:両親に言ったの。
Joan: Told them what?
ジョーン:何を言ったの?
Alison: That i'm a lesbian
アリソン:私がレズビアンだってこと
Joan: Oh. How are they taking it? What do they say?
ジョーン:ああ。どんな感じだった?なんて言われた?
Alison: Oh. Nothing. I just put it in the mailbox just now.
アリソン:何も。ついさっきポストに投函したとこだから。

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(カミングアウト後、ジョーンにレズビアンの集会に誘われて)
Alison: I don't know if I fit in.
アリソン:なじめるか分からない。
Joan: With who?
ジョーン:誰に?
Alison: The lesbians. The real lesbians. You know what I mean. They're political and socially conscious and- Real lesbians.
アリソン:レズビアンたちだよ。本物の、レズビアンたち。意味分かるでしょ。彼女たちって政治に詳しくて社会的意識が高くてー本物のレズビアンたち。

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大学時代アリソンを演じるEmily Skeggsがお話ししながらお菓子作る動画。かわいい。

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"Ring of Keys"という曲

今日の一曲。Telephone Wireという曲も大好きなのでそれと迷ったのですが歌詞全部書き出してたら長くなっちゃう上に涙が止まらなくなるのでやめます。静かに一人で聴いてください。電車の中とかで聴いちゃだめだよ。
"Ring of Keys"はトニー賞でも歌われた曲で、私はこのパフォーマンスを見て即アルバムをiTunesストアで購入し結果的にニューヨークまで観に行くことになりました。少女時代のアリソンを演じるシドニー・ルーカスという女の子が一人で歌い切るのですが、繊細かつパワフルな彼女の演技に心震えます。

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以下、歌詞(載せているのはアルバムに収録されている部分だけなので動画では最初のアリソンの語りがもうちょっと長いです) 

ALISON [Spoken] :
You didn't notice her at first but I saw her the moment she walked in
パパはすぐに気づかなかったけど私は彼女がお店に入ったその瞬間に目を奪われた
She was a delivery woman
彼女は配達員で
She came in with a hand cart full of packages,
荷物がたくさん乗ったハンドカートを押して入ってきた
She was an old school butch.
彼女は昔ながらのブッチだった

SMALL ALISON:
Someone just came in the door.
誰かがドアから入ってきた
Like no one I ever saw before.
今まで見たことない誰か
I feel...
私...
I feel...
私...

I don't know where you came from
あなたはどこから来たのかな
I wish I did
知ってればいいんだけど
I feel so dumb.
私バカみたいね
I feel...
私...

[Chorus]
Your swagger and your bearing
あなたの堂々とした身のこなし
and the just right clothes you're wearing
あなたにぴったりなその服装
Your short hair and your dungarees
そのショートヘアにそのジーンズ
And your lace up boots.
その編み上げ靴も
And your keys oh
それにあなたのその鍵
Your ring of keys.
その鍵の束

I thought it was s'pposed to be wrong
それっていけないことだと思ってた
But you seem okay with being strong
でもあなたは強いままで平気そう
I want...to...
私も...
You're so...
あなたってとっても...

It's probably conceited to say,
自惚れてるかもしれないけど
But I think we're alike in a certain way
私たちってどこか似てると思うの
I...um...
私...あの...

[Chorus]

Do you feel my heart saying hi?
私のハートが挨拶してるのを感じる?
In this whole luncheonette
この広い食堂の中で
Why am I the only one who see you're beautiful?
私だけがあなたを美しいと思ってるなんて

[Spoken]
No, I mean
ううん、そうじゃなくて

[Sung]
Handsome!
ハンサム、ね!

[Chorus]

I know you
私あなたを知ってる
I know you
I know you

 

アリソンはお店に入ってきたこれまで見たことないタイプの女性に目を奪われます。「ブッチ(butch)」に対応する日本語が分からなかったのでそのままカタカナにしちゃったんですが、この言葉は「男っぽい女/レズビアン」のことを指し、普段は侮蔑語として使われることが多いみたいです。
この歌は決してアリソンがこの配達員の女性に恋をしたという内容ではなく、なりたい自分を見つけた、何て言葉にすればいいのかはまだ分からないけれど、自分のアイデンティティらしきものを認識したということ。それまでのアリソンは、女の子らしい服装や髪型をすることに嫌悪感はあるものの、そんな風に感じる自分が変でワガママなんだと思わされてきました。劇中でも「女の子は女の子らしくしないと周りから浮いてしまうよ。後ろ指さされて笑い者になってもいいのか?」とお父さんが言い、半強制的にアリソンにドレスを着せる場面があります。これはそのままお父さんが自分自身に言い聞かせて抑圧してきたような言葉なんだろうな、と思うと苦しくなるんですが、とにかくアリソンには選択肢がなかった。しかし、この女性が目の前に現れたことで、今まで存在すら知らなかった選択肢が与えられ、アリソンの「ありたい自分」は肯定されます。もしかしたら、こうした自己受容のきっかけになる出会いがあったかどうかが、アリソンとお父さんの運命の違いを決定づける分岐点の一つになったのかもしれません。

アリソンは途中何度も言葉に詰まってしまうのですが、中盤の"It's probably conceited to say"から始まる部分で、「一文目の"say"と二文目の"way"で韻を踏ませていて、聴き手に三文目にくるのが"gay"だと予想させる作りになっている」という解説を読んで「な、なるほど」と思いました。観客には次の言葉が分かるけれど、アリソンはまだこの自分を表す言葉を知らないから言葉が続かないんですね。

 

最後にインタビューから抜粋
(動画12:19頃〜。大人アリソン役Beth Maloneの言葉。)

(出待ちの)列に並んで今にも泣き出しそうな顔で「ありがとう、ありがとう」と繰り返す女の子にこう言ったの。「あなたの物語も語られる価値がある。他の人の物語のようにね。だから価値がないなんて思わないで堂々と自分の人生を生きなさい(live your life out loud)。あなたの生き方を見せて(live your life visible)、そうしたらあなたも誰かの灯りになれるから。」

www.youtube.com

 

アルバム、原作漫画(英語版日本語版も)、アマゾンで買えます。日本語版の原作漫画につけられているレビューが分かりやすくて最高でした。コピペしたい。
台本は多分ここで買えます。日本への送料含めて24ドルくらい?かな?デジタル版も探せばありそう。