空が青くて涙が出るよ

映画やミュージカルやテレビドラマの話などをします。

映画『ブラックパンサー』の話をしよう

1ヶ月一回更新も怪しくなってきたけどブラックパンサーの話はしたい。

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公開日の3/1に観に行き即何かしらの記事を上げる意気込みでいたのにインフルエンザに全てを狂わせられました。冬ほんといいとこない。

結局その二週間後くらいに『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』の試写会*1に行った際に同じ映画館で『ブラックパンサー』も観てきたんですけど、最ッ高でした。知ってた。知ってたけど最高だった。鑑賞前に目に入ってきた情報だけで心のあらゆるハードルが上がっていたにも関わらず、ブラックパンサーは平気な顔して体をひねりながら軽ーくそれらを飛び越えてきました。かっちょいいっす。唯一問題があるとすると、素晴らしい点が多すぎて一体何を書けばいいのか分からなくなったってことですね。インターネットの海にはもう既に詳しい解説記事とかいっぱい転がってるでしょうし、私は焦点絞ってひたすら髪の毛の話でもしようかなと思ってたんですが、それもなんか上手くまとまりそうになかったので(髪の毛だけに)、予定を変えて私の大好きなテレビ番組"The Daily Show with Trevor Noah"のブラックパンサー回をひたすら訳していくことに決めました。全三回になる予定です。髪の毛の話はたぶん次回ちょこっとします。

第一回目は、司会のトレヴァー・ノアと番組特派員ロイ・ウッド・Jr.による対談。『ブラックパンサー』がアメリカの人々、特にアフリカ系の人々にどのように受け入れられているのかが少し掴めるんじゃないかなと思います。

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トレヴァー:今週末、『ブラックパンサー』が記録を打ち破り、数億ドルもの興行収入を得ました。でも心配する必要はないよ、まだこの映画を見てないっていうのなら、それは単に君が人種差別主義者だってだけだから。

[笑い声]

トレヴァー:冗談だよ、冗談冗談。君は人種差別主義者だけど、それが理由じゃないよね。とにかく、ハリウッドのことになるといつでも内情に詳しい人物、我らが情報部員でムービー・キング、ロイ・ウッド・Jr.をお迎えします!

ロイ:(観客の方を向いて腕をクロス)あなた方にワカンダを。(トレヴァーに向き直って)あなたにもワカンダを。私にもワカンダを。ワカンダ、ワカンダ、ワカンダ。

トレヴァー:ワカンダ、マイ・ブラザー

ロイ:ワカンダ、ワカンダ。

トレヴァー:それで、察するに、もう映画は見たね?

ロイ:おいおい。一度観て、二度観て、六度観たよ、トレヴァー。黒人の劇場で、黒人と一緒にね。あれはマジで黒人のための映画館(black-ass movie theater)だったね。

トレヴァー:どうして...よく分からないんだけど...どうして黒人の映画館だって分かったんだ?

ロイ:フットロッカーの上にあったんだよ、トレヴァー。

[笑い声]

トレヴァー:理にかなった指摘だね。

ロイ:マジで黒人のための映画館だった。なあ、この映画は事件だよ。黒人版『ハミルトン』*2みたいなもんさ。

トレヴァー:待って、ハミルトンって黒人版ハミルトンじゃなかった?

ロイ:こんなんじゃなかった、トレヴァー。まず初めに、観客席のチケットが一枚400ドルするものは黒人のものにはなり得ない。それに、保証するけど、映画一つのためにこんな風に振る舞う黒人たちを見たことないはずだよ。

[ニュース映像]

ニュースリポーター:人々が楽器と共に姿を現してきています。このような美しい服を身にまとって。

観客:ブラックパンサー!ワァー!イエー!カモーン!ワカンダー!!!!

[歓声を上げたり叫んだり口笛を吹いたり太鼓を叩いたりする映画館の観客たち]

ロイ: (笑いながら)ああ、これより前に黒人は映画館でうるさいとか思ってた人たち…太鼓を持ってくるまで待ってな、ってね。私たちはどんな映画ででも踊るぞ(ドコドコ)。次の駅は『ピーター・ラビット』だ。「ピーターラビット、強く生きて!強く生きるんだ、ブラザー・ピーター!(ドコドコ)」感じたかい、トレヴァー。映画館でブラックネスを感じることができた?どんな人がブラックネスを感じることができたか教えてあげよう。白人だ。ツイッターで見た白人たちなんだけど、彼らはこの映画を観に行っていいのかどうかも分からない様子だった。

トレヴァー:そう、いや、本当なんだよ。みんな「白人もブラックパンサーを観に行ってもいいの?」みたいなことツイートしてて。(ロイに向かって)ねえ、白人もブラックパンサーを観ていいの?

ロイ:もちろんさ。本物のブラックパンサーのミーティングじゃあるまいし。誰でも歓迎だよ。子供も連れてきて、お祭りに加わろう。仮装したっていいし(ドコドコ)。

トレヴァー:ちょっとちょっとちょっと待って。いま自分が何言ったか分かってる?白人がブラックパンサーに出てくるキャラクターの仮装をしてても気にしないってこと?

ロイ:そうだよ。その仮装が映画に出てくる白人二人のうちの一人のものである限りはね。

[笑い声]

ロイ:選べるよ、痩せてる奴と、筋肉質な奴から。どっちになりたいんだ?

トレヴァー:選択肢があるんだね。

ロイ:そうさ。

トレヴァー:興味深いことに、ロイ、この映画は黒人コミュニティーの間でものすごい反響を呼んでいる。その要因はなんだと思う?レプリゼンテーション?パワフルな黒人女性が見られるから?アフロ・フューチャリズムの展望?

ロイ:それか、それか、それか、ただ単に超イカしてる映画(dope-ass movie)だからってだけかもよ。ジェームズ・ボールドウィン*3になる必要はないんだ。戦闘シーンとか見た?あれはやばかった。彼女ポールを持っててさ、それを伸ばして、でウィッグを投げて、奴がひっくり返って、あんなことして、それで彼は車の上にいて、車が回転してさ、彼も宙返りして、そして飛んだ車の上に着地して戻るんだぜ?それであいつら...

トレヴァー:分かったから、ネタバレ、ネタバレ、ネタバレ気をつけて。

ロイ:先行映像で出てた部分だろ?

トレヴァー:ネタバレなしで。分かったから。アクションね。でも認めなよ、だって、多くの黒人たちにとって、この映画は心に特別な思いを抱かせるものになってるでしょ?

ロイ:ああ、そうだね。オーケー、認めるよ。ワカンダは心の琴線に触れた。というのも、嬉しいんだよ、奴隷制の話でも歌の話でもドラッグを売る話でもない黒人の映画があるってことはね。これはただ楽しい、空想映画だ。しかも黒人にとっての空想ってのは突飛なものでもなんでもない。黒人にとっての出来のいい空想ってのは「アフリカでただ自分たちがくつろいで楽しい時間を過ごしてる」もののことなんだよ。それだけあればいいんだ。さらに空飛ぶ車が数台あれば素敵だね、あの回転するやつやるために。(観客の方を向いて)ワカンダ!あなたにワカンダ!

トレヴァー:ロイ・ウッド・Jr.でした!

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軽く言ってはいましたが、黒人にとっては「アフリカでただ自分たちがくつろいで楽しい時間を過ごしてる(just us chillin' in Africa having a good time)」だけのことが素敵な空想/ファンタジーになり得る、というロイの言葉がかなりずっしりきました。自宅の裏庭に丸腰でいても警官に撃ち殺されるような現実がありますからね...。今月の話ですよこれ。

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こちらは番組の合間にトレヴァー・ノアが観客に向けてカジュアルに話しているもの。『ブラックパンサー』は黒人にとって大切な意味を持つ作品だけど、それ以外の人だって楽しめる最高の映画だよみたいな話。

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この中で『ブラックパンサー』を観た人はどれくらいいる?『ブラックパンサー』観た?

[歓声]

素晴らしいマーベル映画だよ。どうやら間違った方向に過熱してる人もいるみたいだけど。彼らは「で、黒人映画(black film)なのか?」みたいなこと言うんだ。違うよ。映画さ。『ワンダー・ウーマン』がイカした映画(dope movie)で、見る人が女性だった場合には更に特別な意味が上乗せされたのと同じことだよ。言ってる意味分かる?これはイカした映画で、見る人が黒人だった場合には、極上の映画になるんだ。それだけだよ。それでも誰かに「白人が白人のために作った映画なんて想像できるか?」なんて言われたりして。

[笑い声]

それってつまり...「映画」のこと?君が言いたいのって。「映画」のことかな?って(笑)そんなんじゃなくてさ、これはただの楽しい映画だって。誰でも観に行っていいんだ、いい時間が過ごせるよ。黒人たちははしゃいでるし。イカしてた。そして僕にとっては更に特別なものだったんだ。映画内で登場人物がコサ語(Xhosa)*4を話すからね。だから、そこでは字幕が出るんだけど、僕は「字幕なんかいらないよ!僕に字幕は必要ない!字幕なんか消しちまえ!」って感じだった。「この部分は僕のためだけにあるんだ、僕以外誰も聞くんじゃない。母さんを思い出すなあ...」って(笑)本当だよ。この映画に出てくる女性は一人残らず超カッコいい(badass)アフリカ女性で、大胆不敵で怒り狂うんだ。観客は大喜びだったよ、「パワフルな黒人女性を見せてくれる素晴らしい映画だ」って。僕はちょっとトラウマを刺激されたけど。僕の母さんが僕の尻をひっぱたく光景を思い出してね。だから映画で彼女らに叩きのめされる男たちを見ては「あれは僕だ」「あれも僕だ」って感じてた。

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ブラックパンサー』に対して「黒人映画でしょ?」とか言って敬遠してる白人(または自分を白人と同一視している人)たちにはクメイル・ナンジアニ*5のこの言葉を贈りたいですね。(動画0:38頃〜)
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Some of my favorite movies are movies by straight white dudes about straight white dudes. Now, straight white dudes can watch movies starring me and you relate to that. It's not that hard. I've done it my whole life.
僕のお気に入りの映画のいくつかは、ストレートの白人男たちが作ったストレートの白人男たちについての映画だ。次は、ストレートの白人男たちが僕主演の映画を見て感情移入する番だよ。そんなに難しいことじゃない。僕はこれまでずっとそれをやってきたんだから。

ブラックパンサー、ほんとに超イカした映画だったのでまだ観に行ってないという方がいるのならぜひ。そろそろ終わっちゃうかもしれないので...。マーベル作品一個も観たことなくても全く問題ありませんよ。 

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*1:ペンタゴンペーパーズもとっても良かったです。ニクソンの電話音声は本物を使ってるっていうのがアツいですね。(「ベターコールソウルじゃん!!!」と叫びたくなるシーンがあるので『ベター・コール・ソウル』好きにもおすすめ)

*2:2015年にブロードウェイで開幕し社会現象を巻き起こしたミュージカル。アメリカ建国の父の話でありながらキャストのほとんどに有色人種を採用しヒップホップを楽曲に用いるなどしてアメリカが移民の国だということを強調した。現在も米4都市と英1都市で上演中。チケット入手困難。

*3:アメリカ合衆国の小説家で社会評論家。公民権運動にも積極的に参加した。

*4:南アフリカ共和国公用語の一つ。トレヴァー・ノアは南アフリカ出身でお母さんがコサ族。

*5:パキスタン出身のコメディアン、俳優。映画『ビッグ・シック』では主演と共に脚本も務め、アカデミー賞脚本賞にノミネートされた。この『ビッグ・シック』も大傑作でした。