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『ブラックパンサー』におけるヒーローとヴィラン

インフィニティ〜ウォ〜が公開されてもうすぐ二週間が経ちますがブラックパンサーの話ですよ。 

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かなり間が空きましたが、ザ・デイリー・ショー(The Daily Show)の『ブラックパンサー』関連回特集、第三回目。最終回です。ブラックパンサーってまだ公開してるんでしょうか…。

第一回はこちら。

第二回はこちら。 

今回はタイトルロールであるブラックパンサーa.k.a.ティチャラ)を演じたチャドウィック・ボーズマンのインタビュー。『ブラックパンサー』において「ヒーロー」とは誰を指すのか、ワカンダの王を演じるにあたって意識して取り入れたアクセントのこと、アフリカ本土でもこの映画が歓迎されていることをどう思っているかなどについて話しています。 

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(一応全訳したんですが、間違ってるところとか変な訳あるかもしれないです…)

トレヴァー:チャドウィック・ボーズマンです!

トレヴァー:[ハグの後チャドウィックに向かって腕をクロス]

チャドウィック:おお、いいね。[トレヴァーと観客に向けて腕をクロス]

チャドウィック:君がそれやるなんて予想してなかったよ。

トレヴァー:ようこそ、ようこそ。僕がやると思わなかったってどういうこと?今後の人生どこへ行っても君はこうやって挨拶されることになるだろう。

チャドウィック:それは…それは間違ってないね。

トレヴァー:君はワカンダの王なんだ、友よ。おめでとう。僕は長い間君のファンで、君の出る映画を追いかけてきている。君はスクリーン内で、これ以上ないほど象徴的な人々を演じてきた。それでも、何か他と全く違う魅力がこのキャラクターにはあるよね。それって『ブラックパンサー』を作っているときに感じられたことだった?

チャドウィック:えっと、このプロジェクトがどれほど特別なものになり得るかはキャスト全員が分かっていたことだと思う。僕たちは元のコミックがどんなものか知っていた。全体の構想を理解していたんだ。技術的に進んでいる国がアフリカにあって、実質的にはそこにいる人々が地球上で一番古くからいる人間なんだということをね。

トレヴァー: なるほど。

チャドウィック:そのアイデアは、僕らの情熱を思い切り傾けられると確信できる革命的なものだった。僕たちが分かっていなかったのは、人々がどのようにこれを受け止めるかということだった。僕らは分かっていなかった、こんな衝撃を与えるものになるなんて。

トレヴァー:うん。

チャドウィック:僕らには分かっていた、黒人のスーパーヒーローを見せることは大事だろうということが。僕らには分かっていたんだ、それは興味深いものになるだろうということがね。映画の女性たちの姿を見て衝撃を受ける人たちがいるだろうということも分かっていた。でも、それがニッチ市場になり得るかは分からなかった。大勢の人々が気に入るかは分からなかったんだ。それに、スタジオが持てる力の全てをこの映画につぎ込むかどうかも分からなかった。だから僕はマーベルとディズニーを称えないといけないね、不安に感じたことを非難するような仕事ぶりだった。本質的には彼らがやったのはそういうことさ。

トレヴァー:それって本当に彼らがやったことそのものだよね。つまり、世界に向けたマーケティングに、ストーリーの語られ方、配役…。ストーリーを特別なものにしていたのは、こう感じたのが僕だけかは分からないけど、ブラックパンサーのパワーはスーツからだけではなく、彼の周りにいる人々からもたらされている。

チャドウィック:伝統からね。そう、そう。

トレヴァー:伝統から。部族から。周りの女性たちから。見ていて本当に特別な気持ちにさせてくれたのは、サイドキックのような人が誰もいなかったように感じたんだ。誰もがチームの一員のようだった。それって君が重要視していたことだった?全てのシーンでのスターたちの扱い方って。

チャドウィック:ああ。もちろんだよ。彼が良き王になるためには…誰かの賢さを示す良いサインの一つは…その人は責任を分散させるんだ。

トレヴァー:うん。

チャドウィック:そう、だから、彼の父親が彼に教えたんだろうと僕は感じた、「みんなの力を使え、一人で何もかもやろうとするな」ということをね。

トレヴァー:うん。

チャドウィック:同時にあらゆる場所にいることは不可能なんだ。だから、ダナイ(・グリラ)が彼女本来の強い姿でいることが重要だったし、ルピタ(・ニョンゴ)が彼女本来の強い姿でいることが重要だった。そして、この映画には悪役がいないと僕は思っている。キルモンガーのストーリーとティチャラのストーリーという、2つの側面を持つ同じコインがあるだけなんだ。

トレヴァー:それって面白いね…うん。

チャドウィック:そういう風に僕らは扱ってた。マイケル(・B・ジョーダン)と僕は別々の場所にいて、ある時点で合流するようにした、シーンに緊張感を生み出すために。それでも共同制作だったと思ってる、一丸となって働いたみんなによるね。

トレヴァー:それって興味深い考えだね。悪役がいなくて、二つの側面があるだけということ。つまり、これまで以上に、アメリカでは現在、みんなが「あそこに悪い奴がいる、あそこにはいない、あそこには…」という感じで、どんな話にも悪役が必要かのように感じてしまうんだけど、そのことが『ブラックパンサー』を複雑にしている要因だよね。ネタバレはしないけど、これは、自分がどういう感情を持つか全く分からないストーリーのようだと感じた。考え出す必要があるんだ、登場人物たちが成し遂げたいことを成し遂げるために取った方法に対して自分がどんな感情を持ったのか。

チャドウィック:観客が誰であれ、責任から免れさせないようにしてる。

トレヴァー:うん。

チャドウィック:意味分かる?これが重要な点だと思うんだ。僕が思うに…誰もが自分自身のストーリーの中ではヒーローだろ?

トレヴァー:そうだね。

チャドウィック:自分自身のストーリーの中では自分がヒーローであるはず、そうあるべきなんだ。

[歓声と拍手]

チャドウィック:そう…自分は成し遂げたいことのために劇的な行動を起こせるという自覚を持っていなければいけない。そうすれば危機に直面した時にどう対処すればいいのかが分かる。そうであるべきなんだ。君のストーリーに入ってきて君を手助けする人たちもいるだろうが、そこにある困難を処理する人間は君でなくてはいけない。君を助け出してくれる救いの神(デウス・エクス・マキナ)は現れないんだ。

トレヴァー:そうだね。

チャドウィック:神に祈ったとしても、神は君に何かしらの行動を起こすことを求める。だから、自分がヒーローになるしかないんだと思う。

トレヴァー:それは見て分かったし、感じたよ。それに、とても多くのキャラクターたちに様々な形で繋がりを感じることができた。彼らの姿や行動のおかげだけではなく、故郷のおかげでね。例えば、僕がすごく感心したのは、この映画に出てくる人みんながアフリカのアクセントを持っていたことだった。それに、クールだったのは、それが色々な地域のアフリカのアクセントだったことだね。例えばエムバクはナイジェリア風のアクセントだったし、ナキアはケニアを感じさせるアクセントだった。そして、ティチャラが登場し、映画のある瞬間に、君を見ていて、僕は「なぜ若き日のネルソン・マンデラのように聞こえるんだ?」と感じた。あのアクセントの裏には、コサ語(Xhosa)*1からのインスピレーションがあったりしたのかな?

チャドウィック:もちろん。間違いない。それが僕の方言コーチの音だったんだ。それで、僕はその音が欲しかった。特に、その吸着音(clicks)が指し示してると感じてね…つまり、吸着音を持つ言語は最古のものだと信じられているから。 

トレヴァー:うん。そう。そうだね。

チャドウィック:だからこのキャラクターには丁度良い音だと思ったんだ。それに、君が指摘したポイント、それぞれの集まり、それぞれの人が異なる音を持っているということ。僕たちはこの大陸を取り込んで、閉じ込めようとしていた感じかな。圧縮して、「僕らが愛している大陸のものの全ての源泉はここなんだ」と言うかのようにね。

トレヴァー:うん、うん。

チャドウィック:だから様々な地域から集めることができた、だって元はここから…ワカンダから分散されたんだからね。だから、そう、彼女(ルピタ)はケニアを匂わせるアクセントを持つことができた*2し、それぞれの俳優が自分に近いものを持ってきてストーリーに組み込むことを可能にしているんだ。

トレヴァー:うん。

チャドウィック: だから対照的に、こう言う人々がいるかもしれない、「欲しいものをなんでも選び取って一般化したアフリカ(generalized Africa)を見せるなんて許せない」と。だけど、もしそれがオーガニックな真実、オーガニックなDNAからもたらされたものならば、それって僕らがやったことだけど、全員が共通の認識を持つようになり、リアルなものになるんだ。

トレヴァー:でも、心のどこかで心配することはなかった?みんながアフリカのアクセントで話すと、スタジオ、もしくは映画ファンからさえも敬遠されてしまうんじゃないかって。

チャドウィック:僕は…僕は心配してなかった。

トレヴァー:つまり誰かは心配してたってことだね。心配してる人はいたってことだ。

[笑い声]

チャドウィック:僕は心配していなかった。というのも、僕は見てきていた、ジョン・カニシェイクスピアをやるのを。意味分かる?映画では僕の父親を演じている人なんだけど。それに、アフリカのズールー族によるマクベスも見たことがある。そういうのを見たことがあったから、上手くいくって分かっていたんだ。大学時代から見てきたからね、それが成功し得るってことを。

トレヴァー:なるほど。

チャドウィック:他の人たちはそういうのを見たことがなかった。僕は知っていたんだ、アフリカのアクセントでも英語に内在する情熱を最大限に引き出せるんだということを。ブリティッシュアクセント以上にとは言わないまでも、同程度にはね。それで、「そんなのを映画丸々通して聴いてられないよ」みたいな言葉を聞いた時、それって僕一人のアクセントに対してのコメントだったんだけど、「いや、いつか僕らもワカンダに行くんだけど」って感じで。内心では、「もし今僕がブリティッシュアクセントで話していたら…今後一体どうなっちゃうんだ?」って。

[笑い声]

チャドウィック:他の国民たちもブリティッシュアクセントで話しててさ。

トレヴァー:今そのシーンを想像してる。

チャドウィック:最悪なものになるよ。

トレヴァー:僕、映画から削除されたシーンを今思い浮かべてるよ。ブラックパンサーが帰ってきて、みんなが「国王よ、戻られたのですね」って感じで、彼は[ブリティッシュアクセントで]「ご機嫌よう。なんだね?ご機嫌よう。帰ってこられて嬉しいよ。」みたいな。

[笑い声]

チャドウィック:僕らがそれについて話し合っていた頃、その悪夢見たよ。

[笑い声]

チャドウィック:その悪夢見た。僕は「勘弁してくれ」って感じで。

トレヴァー:この映画はとても多くの人々のとても多くの面に繋がっている。そして僕が本当に楽しんだのは…僕はニューヨーク市でこの映画を観る機会を得たんだ。様々な背景を持つ、様々な人々とこの映画を見ることができた。この映画が多くのアフリカ系アメリカ人たちの心に触れた様子を見られたんだ。そして更に僕が気に入ったのは、その真正性(authenticity)が逆輸入されて行く様子だった、アフリカに、南アフリカにね。

チャドウィック:うん。

トレヴァー: この国の人々と同じくらい、この映画を受け入れ(embrace)ている故郷の人々を僕は見た。それって簡単にできることじゃないよ。だって、アフリカ人は映画の中である特定の形で描写され、正直に言うけど多くの場合は、映画を観ていて僕らは「この人たち一体今誰を真似ようとしてるんだ?」って感じるんだ。

チャドウィック: うん。

トレヴァー:「これはアフリカのどの地域なんだ?」ってね。

チャドウィック:うん。

トレヴァー:だけどみんな喜んでた。母国の人々はとても気に入っていたんだ。これって君にとって大切なことだった?このことが心を動かしたりした?

チャドウィック:どう感じているか言葉にすることすらできないよ。というのも、両側面、アフリカ系アメリカ人として、そして大陸から来た人々も見てきて、僕は人生をかけて分断を目にしてきた。

トレヴァー:うん。

チャドウィック:子供の頃に「African booty scratchers*3」という侮辱的な言葉を聞いたことも覚えてる。

トレヴァー:うん、うん。うん。

チャドウィック:そういうのを覚えてる。それでその後、僕はアフリカを知ろう(find Africa)とする段階を経験した、自分がどの地域にルーツを持つのかも知らないままにね。

トレヴァー:わあ。

チャドウィック:それに、ある特有の視線を僕らに向けるアフリカ人たちも見てきた、「君たちとは繋がりなんてない(You're not connected)」「自分のルーツを知らないんだろ(You don't know where you're from)」っていう。でも同時に、僕らの文化の一定部分を愛してもいる。だからそこには奇妙な力関係がある。

トレヴァー: うん。

チャドウィック: 僕は口頭伝承を知らないんだ、それを聞いて育ってないから。もし僕がどこから来たのか正確に知っていたなら、子供の頃にその場所の口頭伝承を受け継いでいたはずだ。

トレヴァー: そうだね。

チャドウィック:僕はそういうものを手に入れたことがなかった。だからこの映画では、ある意味で、僕らみんなが共有できるストーリーを創り出したんだ。それは初めて…そういうことって今までになかったように感じる。

トレヴァー: 僕もそう思う、うん。

チャドウィック:これは、「オーケー、これは僕らの物語だ」「僕らの物語でもあるよ」と言えるようなものなんだ。その一因を担っているのが、こうやって衝突するこの二人のキャラクターだと思う。

トレヴァー: うん。

チャドウィック:二人はお互いのことを調べ、お互いについて知る必要がある。だから戦闘中であっても、二人の間にはある種の一体感(kinship)がある。それがスクリーンにも投影されていて、人々に受け入れられているんだと思う。

トレヴァー:投影されているし、歓迎されているし、電撃的だし、更に十億ほど収入をあげるだろう。だから…

[歓声と拍手]

トレヴァー: おめでとう。この番組に君を迎えることができて感激だ。君のしてきた全てのことに感謝する。

チャドウィック:ありがとう。

トレヴァー: 君の存在は有難いよ。

チャドウィック:嬉しいね。

トレヴァー: 『ブラックパンサー』現在上映中です。チャドウィック・ボーズマンでした。

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デイリーショーのインタビューの好きなところは、インタビュー相手の話を途中で無闇に遮ったりしないところですね。基本的にゲストの言いたいことを最後まで言わせてくれるから安心して見られる。

インタビュー内容にもありましたが、『ブラックパンサー』では、キルモンガーという「ヴィラン」を絶対的な悪として描かなかったのが本当に偉大だなと思います。アフリカ系アメリカ人が現実に抱えている苦悩や悲しみや怒りがキルモンガーというキャラクターを通してひしひしと伝わってくるから、彼が悪いなんて口が裂けても言えないし、「他にもやり方はあったよね」と言うことさえも憚られる。だって「平和的な方法」でのプロテストにこちらが目を向けてこなかっただけかもしれないから。キルモンガーを絶対悪としてただティチャラに排除させるのではなく、彼の持つ背景や感情に気づかせ、ティチャラに今後の王としてのあり方を見直させるというストーリーラインにした制作陣たち、本当にすごいと思います。眩しい。

あとアクセントの話もすごく面白かったです。「アフリカ人のアクセント」と一括りにするのではなく、それぞれのキャラクターがアフリカの違う地域のアクセントを用い、しかも俳優たち自身のルーツに近いものを選べるようにしたというのが眩しいですし、チャドウィック・ボーズマンネルソン・マンデラ母語であるコサ語のアクセントを選んだのも賢いなと思いました。ティチャラの備え持つ知性と力強さと温情を示すにはぴったりの選択なのではないでしょうか。

ちなみにネルソン・マンデラの実際の話し声はこんな感じ。
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ついでに「91歳の誕生日パーティーを楽しむ泥酔したネルソン・マンデラ」を想像して物真似するトレヴァーノアの動画も置いておきます(0:52頃~)。
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これは『トレバー・ノア・ショー(You Laugh But It's True)』という2011年に作られたドキュメンタリーからの映像で、日本でもNetflixにて全編見られます。めちゃくちゃ面白いので見たことない方はぜひ。トレヴァーの著書『Born a Crime』に出てくる、彼の育った町や彼の家族や車のないドライブウェイや野外便所なども出てくるので合わせて見る/読むと更に楽しいです。

『Born a Crime』日本語版もついに発売されました。

トレバー・ノア 生まれたことが犯罪! ?

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英語版はこちら。

Born a Crime: Stories from a South African Childhood

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*1:南アフリカ共和国公用語の一つ。ネルソン・マンデラ母語

*2:ルピタ・ニョンゴはメキシコ生まれのケニア育ち。

*3:主にアフリカ系アメリカ人がアフリカ人移民に向けて使ってきた侮蔑語。アメリカの(日本でも)メディアに度々映し出される、貧困と飢餓に苦しみ常に体のどこかしらを掻いているようなステレオタイプなアフリカ人像から生じた言葉。らしいです