空が青くて涙が出るよ

映画やミュージカルやテレビドラマの話などをします。

2018年に観た新作映画ベスト10 

2019年もそろそろ一ヶ月が過ぎようとしていますがいかがお過ごしですか。元気なら何よりです。元気じゃなかったらおいしいものを食べたり好きな映画を観たりよく眠ったりしてお休みください。私は2018年に映画館で観た新作映画に順位なんかをつけていきますね。

昨年一昨年のランキングはこちら。その当時思い入れのあった順で作ったので今作り直したらほぼ間違いなく違うランキングができあがるだろうなって感じですが…(一位は今でも変わりません。愛してます)。


ここからが2018年版。 好きな作品順だったら全部一位みたいなものなので、思い入れの強い順であり、印象に残った順です。公開日は全て日本での公開日です。


10. パッドマン 5億人の女性を救った男

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"Money making one man smile, good doing many women smile."
「お金は一人の男を笑顔にする。善行は多くの女性を笑顔にする。」

公開日:12/7
鑑賞日:12/19

生理が「穢れ」として扱われることで女性が受ける健康被害や、人口の半分を占める人間を無下に扱うことで結果的に社会全体にもたらされる損害などを提示する非常に意義深い作品でありながら、インド映画らしい派手な楽しさ(仰々しいサウンドエフェクトにバックミュージック、突如入り込む再現ドラマのようなモノローグ、当然のように始まるミュージカル…)も詰まっていてとっても好きな作品でした。「一人の男の成功物語」で終わらせず、金儲けをゴールにしなかった主人公が女性たちに安価なナプキンだけでなく職をもたらし自立の機会を与えるに至ったところまで見せていたのも最高です。緊張しながらナプキンを売りに行った女性が、初めて自分の力で稼いだお金を見つめて涙ぐむシーンでボロ泣きしました。

 

9. カメラを止めるな!

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「こんなところに斧が。ツイてるわ。」

公開日:6/23
鑑賞日:7/28

期待1割不安9割で観に行った映画でした。「劇場が笑いに包まれた」という感想をちらほら目にしていたんですが、映画が始まっても「え…ここは笑いどころ…?」みたいなシュールなシーンが続いて困惑しつつ「このまま終わったらどうしよう」ゲージが溜まってどんどん不安になっていったのを覚えてます。最終的には「笑いに包まれる劇場」も身を以て体験でき、自分自身もたくさん笑わせてもらって、本当に楽しい時間を過ごすことができました。疑ってごめんね。せっかち良くない。劇場でやっていた割引のネーミングも「ゾンビ割り(ゾンビメイクで行くと安くなる)」に「生き返り割り(リピーター割り)」と個性的なものだったので、鑑賞前に「生き残り割りじゃなくて生き返り割りなんだね」「どっちにしろ一回死んでるじゃん」みたいなやり取りができたのも楽しかったです。

 

8. ぼくの名前はズッキーニ

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「こちらはシモン。聞こえたら手を上げて。」 

公開日:2/10
鑑賞日:2/11

このかわいらしいアニメーションが66分の間に教えてくれるのは、現実は残酷で、経験した痛みが完全に消えることはないかもしれないけど、それでも差し伸べられる手は温かくて心地良いんだということ。そしてその手を握り返したことにより、自分も相手に同じような心地良さを与えられているのかもしれないということ。親から離れた場所で幸せを見つけた子どもたちと、その子どもたちを良心を持って保護しケアする大人たちの存在を当たり前のように描くことで、「生まれ持った親の元で暮らすのが子どもたちにとって最上の幸福でありどんなものもそれには敵わない」といった考えは必ずしも正しいわけではないと優しく諭してくれる作品だと思いました。一緒にクロマニョン人ごっこをしてくれる仲間がいれば、そんな心強いことってないよ。ウガウガウガ。 

 

7. パディントン

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"Aunt Lucy said, if we're kind and polite the world will be right."
「ルーシー叔母さんいわく、親切で礼儀正しくしていれば世界は正しくなる。」

公開日:1/19
鑑賞日:1/26

実写(+実写に限りなく近いCG)作品であるにも関わらず、こだわり抜かれた小道具や色彩、画面構成などによって全編絵本のようなかわいらしさを保っていたのがまず凄かったです。パディントンが文字通り絵本の中に入っていき、ルーシー叔母さんにロンドンを案内するところを空想するシーンも鳥肌ものの美しさでした。あの映像だけで泣ける。泣いた。映像技術だけでなく脚本もしっかりした作りになっていて、ちょっと愉快な小話程度に思っていたものが後に伏線として次々(本当に次々)回収されていく様は爽快で気持ち良かったですし、純真で親切で礼儀正しいパディントンであっても不快な時は不快感を表し、他者の失礼な態度には怒るんだということをちゃんと見せてくれていたのも良かったです。一歩間違えれば都合の良い幼児のようなキャラクターになってしまいそうなところを絶妙なバランスでまとめあげていたんじゃないかと思いました。子どもが観ても大人が観ても楽しい作品だと思うし、「自分も良い人間になろう…」と思わせてくれます。

 

6. レディ・バード

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"I actually want to go to prom."
「私 本当はプロムに行きたい。」

公開日:6/1
鑑賞日:6/8

会話一つ一つのリアリティ、人と人との間に生まれるちょっとした摩擦や衝突などのリアリティが半端じゃないです。飾り立てない控えめなトーンでありながら、めちゃくちゃ笑えるセリフやシーンが散りばめられているところもすごく好き。レディバードの滑稽で可笑しな行動も、真剣にその時を生きているがゆえのものだということが伝わってくるから笑いながらも同時に愛おしさが湧いてきましたし、体育会系マインドの持ち主の神父さんによる演劇指南を真面目に聞いて必死にメモを取る生徒たちのシーンには涙出るほど笑いつつ、私もかつては先生の言うことを真に受け必死にメモを取る生徒の一人だったなと思い返してセンチメンタルな気分になるなどしました。

そしてプロムのシーンが本当に本当に楽しそうで、初めてアメリカのプロム文化を羨ましく思いました。恋人やクールな友達がいなくたって、家でチーズをただ立ち食いするだけでも最高の時を過ごせる友達と一緒なら、お気に入りのドレスで着飾ってはしゃぎまくれるプロムが楽しくないはずないよね。炎に包まれた地獄のような装飾の中真顔で静かに佇むシスターの図も最高でした。

 

5. ブラックパンサー

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"Don't scare me like that, colonizer!"
「そんなふうに驚かせないでよ 入植者!」

公開日:3/1
鑑賞日:3/15

この映画に関わっている人たち誰もが熱意を持って楽しみながら作ったんだろうなというのが伝わってくる、全てのシーン、全てのセリフがキラキラ輝いて見える作品でした。3つくらい記事書いてます。

 

4. ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ

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"Love isn't easy. That's why they call it love."
「愛というのは簡単じゃない。だからそれを愛と呼ぶんだ。」

公開日:2/23
鑑賞日:2/23

「親に反対されることが分かっていながらも恋に落ちた相手が原因不明の昏睡状態に陥り様々な障壁が立ちはだかるが、最終的にはそれらを乗り越えて結婚して幸せになる」という、ベタなラブコメにしか聞こえないストーリーラインが実話だというのがまず驚きですし、そんなベタなラブコメ話を、丁寧で繊細な人間描写とユーモアにより唯一無二の面白さの作品に仕上げていたのがすごいなと思いました。私は明確な悪役を置かない物語がとても好きなんですが、これは正にそんな映画だったなと思います。主人公と異なる価値観を持ち対立する母親のことも、主人公の興味の対象外であるお見合い相手のことさえもちゃんと感情を持った一人の人間として描いていて、全ての問題を特定の人に押し付けたりしない強さがあって好きでした。個人的な物語でありながらも普遍性があるので誰もがどこかしらに共感できるのではないかと思います。 

 

3. タクシー運転手 約束は海を越えて

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「俺はタクシー運転手。あんたはお客さんだ。そうだろ?」

公開日:4/21
鑑賞日:12/9

上映時に観られなかったためにDVDを借りて観たら面白くてたまらなくなって再上映してくれていた映画館まで行って改めて鑑賞した作品。デモをする人々を迷惑そうに眺め「韓国ほど住みやすい国はないぞ」と簡単に言い切ってしまえる、いわゆる「普通」の民間人だった主人公が、金儲けのために赴いた光州にて、軍隊に銃を向けられ、制圧され、命までも奪われていく市民の姿を目の当たりにしたことで、どうしたってそれを知る前の「普通」の自分には戻れなくなるという、正にこの映画を観る「普通」の観客の心情と重なる構成が上手すぎました。笑いどころもヒューマンドラマもカーチェイスもあるエンターテイメント映画でありながら、揺るぎない意志と主張が根底に流れていて好きでしかないです。

命を懸けて危険地帯へ足を運び、その実情を世界に伝えるジャーナリストの存在がいかに重要で現地の人々にとってありがたい存在なのか、そしてそういったジャーナリストたちの命が危険にさらされた時に、「自己責任」という言葉で彼らを切り捨てる行為がいかに残酷なものなのかも明示してくれています。

 

2. 1987、ある闘いの真実

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「デモで世界が変わる?」 

公開日:9/8
鑑賞日:9/26

不正が横行している中で良心を持ち続け、まともであり続けることがどれだけ難しく、しかし尊いものなのか。検事に看守、記者や学生など、様々な立場にいる人々が自分にできる範囲内で正義を貫き全力で抵抗し、その抵抗の輪が広がることで大きなうねりが生まれ目に見える形で世界が変わっていく…そんな様子を見せられて感動しないわけがありません。韓国が乗り越え記憶しようとしている暗い歴史に、日本は現在向かいつつあるどころかもう片足突っ込んでるんじゃないかと思える現実に目を向けざるを得ないのがかなりつらいですが、だからこそ今観ておかなければならない作品なのではないかと思いますし、観てよかったです。国家は国民のものなのだということ、国民を軽んじる政権には反対の意思を示し続ける必要があるということ、一人一人の声は小さなものでも、集まれば国家を動かす強大な力になるのだということ…実際にそうやって民主化を勝ち取った韓国の人々が放つメッセージはパワフルで眩しくて心揺さぶられるものでした。

同じ時代の同じ出来事を描いた漫画『沸点 ソウル・オン・ザ・ストリート』も映画鑑賞後に読んだんですが、こちらも素晴らしかったです。女性たちの闘いも丁寧に熱を持って描かれていて超良い。好きです。

増補版 沸点ーソウル・オン・ザ・ストリート

増補版 沸点ーソウル・オン・ザ・ストリート

 

 

1. バトル・オブ・ザ・セクシーズ

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"I'm not saying women are better. I've never said that. I'm saying we deserve some respect."
「女性の方が優秀だとは言ってない。そんなことを言ったことは一度もない。私が言っているのは、私たちは敬意を払われるに値する存在なんだということ。」

公開日:7/6
鑑賞日:7/27

冒頭の、トーナメント優勝賞金が女子は男子の8分の1だということを知ったビリー・ジーン・キングたちがテニス協会幹部たちを問い詰め、差別的な言葉やバカにしたような態度にもひるむことなく論理的に言い返し、女子だけのトーナメント立ち上げを宣言するシーンだけでもエンパワメント力(ぢから)がすごい。時代は勝手に変わっていくわけではなく、彼女らのような、大きな目標(greater cause)のために連帯し声を上げ闘い続けた人々が変えていったんだということ、そしてその延長線上に私たちは立っているんだということを再認識させ、姿勢を正させ、背中を押してくれる作品だと思いました。この映画で描かれた時代から40年以上が経った今でも女性差別はなくなっていませんし、一つ一つの差別的事案を見ると何にも進歩していないじゃないかと絶望してしまいそうになったりもするけど、それまでは「当たり前」だった差別が今になって可視化され問題視されていっているのは、差別はどんな理由づけがされていようと差別であり許容してはいけないんだという認識を過去に広めてくれた人々がいたからこそだと思うんです。そういった、過去に闘い続け道を切り開いていった人々に感謝と敬意を示すためにも、私たちが今歩みを止めてはいけないなと思いました(差別的な言説や行動に触れ続けると精神が削れるので休むことも時には必要ですが)。ビリー・ジーンのようにビッグジェスチャーで世論に訴えるのは誰もができることではないけど、もっと身近なところ、例えば上司や同僚、家族などとの会話の中で差別的なジョークを聞かされたとき、反論まではできなかったとしてもそれに笑わないことはできるかもしれないし、それだけでも立派な抵抗運動になるんじゃないかと私は思います。そうやって少しずつでも抵抗の意思を示す人が増えれば、確実に世の中は変わっていくんじゃないかな。

あとは、女性同士のロマンスを言い訳がましくなくがっつり描いていたところも良かったなと思いました。アラン・カミング演じるテッド・ティンリングとの、ささやかながらも力強い、クィアな人間同士の連帯も見せてくれていたし最高。好き。

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ランキングに入り切らなかったものでも良い作品はたくさんありましたし、2018年(日本以外の国では2017年公開だったものも多いけど)、面白い映画多かったですねほんとに。ツイッターがなければ観に行かなかっただろうなという作品もいくつもあるので、ツイッターで好きな映画について語り続けてくれた情熱的な皆様にも感謝。今年もよろしくお願いします。