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MCU&スター・ウォーズ映画の「LGBT表象」を振り返る

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聴けるときは聴いているポッドキャストLovett or Leave It』の2019年最後の回で、ホストのジョン・ロヴェット(Jon Lovett)が『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』内の「LGBT表象」にキレていて、それがとても良かったので過去のコメントも合わせて時系列順にちょっとまとめてみました。話の中心は『アベンジャーズ:エンドゲーム』と『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』です。一番最後にスカイウォーカーの夜明けのネタバレ感想を少しだけ書いているのでお気をつけください。


『Lovett or Leave It』とは

オバマ元大統領のスピーチライターをしていたジョン・ロヴェットがホストを務めるポッドキャスト。政治家やコメディアン、ジャーナリスト、科学者など、様々な分野で活躍する人を毎回2〜3人ほどパネリストとして招き、その週起こった出来事を振り返りながら政治やポップカルチャーなどの話をしていきます。観客を入れた会場でライブ収録しているのが特徴で、政治の話が割合としては高めではありますが、ジョークやゲームを交えながらのリラックスした雰囲気で進むので聴きやすいです。


① 2019/05/04の回

アベンジャーズ:エンドゲーム』公開直後のエピソード。エンドゲームにはオープンリーゲイのキャラクターが確かに出てきたけど、数多くいるスーパーヒーローのうちの一人でもなければメインストーリーに絡むわけでもなく、登場するのはたったのワンシーンのみで、セリフをちょっと聞き逃したら気づかないレベル、そしてなぜかその小さな小さな小さな役すらオープンリーゲイの俳優に渡すことはせず、ストレートの監督ジョー・ルッソが演じていたという話。書いてて改めて思ったけどほんとに酷い話ですね。

この回は動画もあります。
www.youtube.com

(4:55〜)(動画0:00〜)
見逃した人もいるかもしれないけど、『アベンジャーズ:エンドゲーム』には非常に重大な意味を持つ瞬間があった。この映画は障壁を打ち砕いた。この映画には… マーベル映画*で初となるオープンリーゲイのキャラクターが出てるんだ。

*「マーベル映画」だと、20世紀FOX製作のデッドプール1,2も含まれる(そしてそこにはネガソニックちゃんとユキオちゃんのレズビアンカップルがいる)ので、「MCUマーベル・シネマティック・ユニバース)」が言い方としては正しいと思います。

誰がゲイだったのかって?ソーがハンマーを掴んだのか?Did Iron Man man some iron?(*ここちょっと分からなかったので原文で…)ホークアイが矢を受けた?ロキがついに控えめに主張することをやめた?キャロル・ダンバースがレズビアン全開にした?『キャプテン・マーベル』時点で明らかにそう描写されるはずだったのに、製作側にその度胸がなかったようだけど!

そのどれでもない。十年分の映画シリーズの集大成。グランド・フィナーレ

この叙事詩的大作が始まったのは、ロバート・ダウニー・Jr.がアイアンマンを演じることが明かされたときで、当時我々はこう呟いた。

「へえ、いいんじゃない。知らないけど。」

マーベル映画初のオープンリーゲイキャラクターが登場するのはグループセラピーのワンシーンで、ストレートの監督ジョー・ルッソが、パワーを持たない、ただのその辺の、悲しみに暮れている男を演じている。彼はある人と初デートに行った話をするんだ。ゲイ男性を演じるジョーはこんなことを言う。「たぶんまたとデートするだろう」ってね。

そして雲は散り、トランペットが奏でられる。こうして僕らは知ることとなった。この、重要性のない、平凡な、言ってしまえば名前もないキャラクターが、マーベル映画初のオープンリーゲイのキャラクターなんだと。なんてったって彼は同性とデートに出かけたからね。スクリーンの外で。

ジョー・ルッソの言葉を引用して読み上げたい。Hollywood Reporterにこのシーンについて尋ねられた際に彼はこう言った

「これらの映画において、レプリゼンテーションは本当に大切であり、マーベルが歩みを進める上で我々が一番喜ばしく思っているのは、マーベル映画があらゆる人々に開かれたシリーズになってきていることです。我々はこれまでにシリーズに連なる4つの映画を作ってきていて、そのうちの一つの映画のどこかしらにゲイキャラクターを出すことは、我々にとって大変重要な意味を持ちました。我々はその判断に強い思いを託していたため、私自身が映画内のそのキャラクターを演じたいと思いました。」

(皮肉を込めて)心から感謝します。

もしかしたら、ゲイのスーパーヒーローを出す予定だったのに、スタジオがそれをやめさせたのかもしれない。もしかしたら、もっと重要性のあるゲイのキャラクターを想定していたのに、それを阻まれたのかも。もしかしたら、事実彼らはそれ(レプリゼンテーション)を本当にすごく大切に思ってるのかも。でも、このシーンではその証明にはなってない。僕には、その真逆のメッセージを証明しているように思える。

僕は14のとき、ブロックバスター映画にゲイのスーパーヒーローがいたらいいのにと心から願ってた。そして今、マーベルのゲイのスーパーヒーローを心から必要としているゲイの子どもたちがたくさんいると思う。子どもたちが求めているんだよ。今この瞬間。

それなのに、何十億ドルも稼ぎ、多くを成し遂げてきたとねぎらい合い、ハリウッドのリベラリズムを体現しているはずの、民主党に多額を寄付する支持者たちが、あれこれ言っておきながら––。マーベルはそういった(ゲイのスーパーヒーローを待ち望む)ファンの味方になることを拒み続けてきた。これは単なる事実。

マーベルがゲイのスーパーヒーローを登場させるまでに何本の映画が必要なんだ?

僕が思うに、このマーベル映画初のオープンリーゲイキャラクターが示しているのは、僕らが進まなければいけない道のりがどれほど長いか、企業がどれほど意気地なしになれるのか、そして、ごく少数の人間が我々の消費するメディアの大多数を掌握していることがどれほど危険なのか、ということ。今は2019年で、必要なら抗議デモだってするけど、言わせてもらうと…

この映画に出てくる男たちは…

すごくホットだ。

そして彼らがお互いをファ◯クする時が来た!

これは過去にも僕が主導した掛け声:彼らにファ◯クさせろ!

[観客も一緒になって]彼らにファ◯クさせろ!彼らにファ◯クさせろ!彼らにファ◯クさせろ!

千人ものテキサス州民がマーベル映画でのゲイセックスを要求してる!アメリカの準備はできてる!*

*この回の収録会場はテキサス州ヒューストンで、テキサスは保守的な地域として知られている。

② 2019/12/07の回

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』公開前のエピソード。J.J.エイブラムス監督が「この映画にはLGBTモーメントがあるよ」とほのめかしたことに対して、嬉しい気持ちもあれば、拭えない猜疑心を抱いてもいるという話。

(55:41〜)
ジョン:新しいスター・ウォーズ映画の公開が迫ってる。それでね、僕はワクワクしてるんだ。いい?君らの目の前にいるのは、その映画公開を待ち望んでる男。スター・ウォーズの新作があるよと言われたら、僕は身を投じる。この言葉を発している今現在は午後11時44分で、15分後には『マンダロリアン』の新エピソードが配信される。そして僕には、それを友達と同時再生して一緒に見る予定がある。スター・ウォーズに対してそれくらいの献身を見せている人間の話として聞いてほしい。哀れな献身だけどね。いい?何度傷つけられても関係ない。僕は戻ってくる。J.J.エイブラムスは「フィンとポーは付き合うんですか?」と問われたときに、「いやあ、彼らは恋愛よりも深い関係にあるから」と答えた。でも本音はもちろん、「スター・ウォーズで主要男性二人にキスなんてさせないよ。おもちゃを作ろうとしてるんだぞ。十億もの––そう、十億ドルものお金をリスクに晒して男と男の恋愛を見せるって?それはないね」ってこと。僕が言いたいのは、彼は確かに、『スカイウォーカーの夜明け』にはLGBT表象があるとほのめかした。そしてそれは素晴らしいことだと思う。僕はワクワクしてる。でも、これまでにも僕は火傷を負わされてきた。いい?『アベンジャーズ:エンドゲーム』でのLGBT表象でも火傷させられた。その映画では、ゲイのキャラクターがあるシーンで言うんだ、「あのさ、僕はデートに出かけたんだ、ブルースって名前の男性と」ってね*。ゲイのストーリーラインはそれで終了。

*実際これより酷くて、このゲイキャラクターとそのデート相手には名前すら与えられていません。

(中略)
(57:40〜)
ジョン:僕が言いたいのは、スター・ウォーズの映画内でついにLGBTが描かれることは嬉しく思ってる。要点は二点。一つ目:この映画シリーズには、ゲイの可能性があるキャラクターがたくさんいる。ヨーダとかね、一つの例えだけど。もう一つ目、もしこのゲイ表象がほんのちょっとの些細な瞬間でしかなかったら、みんなに覚えておいてほしい。彼ら(J.J.エイブラムスたち製作者)がその仕事ぶりを労われることはないと。だって、そんな描写を入れるのは現時点ではクソ簡単なことだから。僕が求めてるのは、ゲイキャラクターがポスターに載ってること。僕が求めてるのは、ゲイで、キスをするスーパーヒーロー。それだけ。

リーリー(・チェイニー):うん。だって、ローラ・ダーンの紫のウィッグだけでは十分とは言えないからね。それに私が思うに…私はあなたに賛同してる。だって、ディズニー・プラスでは––、あの媒体で適切なゲイカップルの描写をするとは思えないから。

ジョン:いつかはすると思う。いつかはするだろうけど、実現するのは、もうその是非をめぐって議論が巻き起こったりしない頃だろうね。そのとき初めて描かれる。映画タイトルの上にゲイヒーローの姿が載るのは、それがもう「勇敢なこと」でも何でもなくなった頃。それが本当に腹立たしい。

③ 2019/12/21の回

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』公開直後のエピソード(収録日が公開日?)。

(84:17〜)
ジョン:最初に考えてた計画では、このエピソードの収録途中で抜けて、アークライト(シネマズ)に直接車で向かってそこで見るつもりだった。ところが…プレミア上映で見ちゃったんだ、ざまあみろ。ごめんね(笑)そう。ローナン・ファロー*がいれば、どこへでも行ける(笑)

*ジョン・ロヴェットの婚約者。#MeToo運動の立役者の一人。

ジョン:とにかく、一瞬たりともネタバレはしないから心配しないで。パニック起こさず聴いて。一つだけ言いたいことがあるんだ。この話をするのに一月まで待つなんてご免だから。それは––これはネタバレじゃないよ、J.J.エイブラムスがプロモーションで匂わせてたものだから。「あー、LGBTモーメントがあるよ」って言って。このステージで僕が言ったことを覚えているなら、僕はこう言った。「それが些細で重要性のないゲイモーメントじゃなければいいけど。だってそんなものを手柄にしてほしくないから」と。ここまで聞いて、この映画に関するちっちゃなちっちゃなほんの少しのばかげたことさえも知りたくなかったら、30秒後に飛ばすボタン押してね。今押して。ちょっと時間あげるから。

ジョン:それは、たった一度だけ背景に映されるゲイのキスだった。重要性がなさすぎて中国のためにカットする必要もないくらいの!

ネギン(・ファルサド):ノーーーー。

ジョシュ(・ゴンデルマン):背景で!?

ジョン:あれは––。瞬きしたら見逃す程度のものだった。誰がキスしたかって?

ネギン:その言い方だとエキストラの誰かがキスしたみたいに聞こえる。

ジョン:いや。エキストラではなかった。

ネギン:物語にちゃんと組み込まれてた人たちなの?

ジョン:エキストラではなかったけど、コールシート(香盤表)に書かれた番号は二桁台の役。それが僕の言えること全て。がっかりでしょ?

観客:どちらかに触手はあった?

ジョン:どちらかに触手があったかって?質問が出た。いいえ、ありませんでした。

観客:くそっ!

ジョン:僕が言いたいのは––  「くそっ」て(笑)

ジョシュ:それもはやゲイとか関係ないよね(笑)触手の熱烈な支持者ってだけで(笑)

ジョン:それで、これが僕らと仲間たちに残されたもの。スター・ウォーズの物語は9つの作品で語られた。ローグ・ワンとソロも数に入れるなら11作品。僕はローグ・ワンだけ数える。

ジョシュ:フリーソロを含めるなら12作品。誰も含めないけど。

ジョン:誰も含めないけどね。この映画シリーズは30年に渡って作られてきていて、僕の知る限りでは、何百万もの惑星がある宇宙の話で、そこには様々な姿と大きさの人間やエイリアンたちが多く暮らしている。それなのに、その広い宇宙に存在する唯一のゲイキャラクターは気取ったプロトコル・ドロイド*のみってわけ。本当に腹立たしいよ。

*たぶんC-3POのこと。

ネギン:これに関してはエリザベス・ウォーレンに賛成だな。スター・ウォーズには大幅な構造的改革が必要。

 

 

〜以下『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』ネタバレ〜

J.J.エイブラムスが「フィンとポーは恋愛よりも深い関係にあるんだ」と答えたインタビュー、そのままでも面白いのに、スカイウォーカーの夜明けを見た後に読むと更に笑えますね。親密な同性キャラクター二人の関係性を問われると「恋愛よりも深い関係にあるんだ」とか言うくせに、男と女だったらその場のノリでキスさせんのかーーーい!という…。レイとカイロレン(ベン)こそ、「恋愛よりも深い関係にあるんだ」描写が相応しかったのでは???というか今までそういう描写してませんでした???となりました。カイロレンに酷い目に遭ってきたレイが、実は彼に恋愛感情を抱いていましたよってオチにするの、結構問題あると思うんですけど…。ベンに戻ったからってカイロレンだった頃にしたことが消えるわけではないですよね…。異性同士は「そういう雰囲気」になったら気軽に突然くっつけるくせに、同性同士だと「恋愛が全てではない」言説に収めてカップルにすることを拒むの、ほんとびっくりするほど分かりやすいなと思いました。