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映画『イン・ザ・ハイツ』、舞台版からどこが変わる?

映画版『イン・ザ・ハイツ(In the Heights)』の予告動画が初公開されましたが、ご覧になりましたか?まだでしたら是非ご覧ください。既に見た方はもう一度どうぞ。

www.youtube.com

はーーー、言葉が見つからない。最高すぎる。来年他にどんな映画が公開されるか分かりませんが、もう先に言っておきます。2020年公開の映画ベスト10、一位はこれです。ありがとうございます。全国のあらゆる劇場で上映してください。

この予告編だけでもちょっと泣きそうになったというか泣いたんですが、リン=マヌエル・ミランダがツイッターで紹介していたBroadway.comの記事に、映画への期待を更に膨らませる内容が書かれていたのでそれも簡単にまとめておきます。

その前にそもそも『イン・ザ・ハイツ』とは?(既にご存知の方は飛ばしてください)

2008年にブロードウェイにて開幕し、その年のトニー賞で作品賞を含む4部門を獲得したミュージカル。作詞作曲主演はリン=マヌエル・ミランダ。『ハミルトン(Hamilton)』を生み出し、『モアナと伝説の海』の歌を書き、『メリー・ポピンズ  リターンズ』では彼のためだけに書き下ろされたとしか思えないラップ曲を歌っていた、世界を豊かにし続けているあのリン=マヌエル・ミランダです。

『イン・ザ・ハイツ』の舞台は、ニューヨーク市マンハッタン北部に位置しラテンアメリカ系の人々が多く暮らす地区、ワシントン・ハイツ。地区の再開発(ジェントリフィケーション)によって引き裂かれつつあるコミュニティー内で、食品雑貨店を営むウスナビを始めとしたキャラクターたちが自身の夢やアイデンティティーを模索していきます。メインキャラクター、メインキャストのほぼ全員が、それまでのミュージカル(含む多くの芸術作品)では陽の当たらない立場に置かれることの多かったヒスパニック系の人々であり、更にヒップホップを多用した楽曲で構成されているという、他にはない魅力の詰まった意欲的で画期的な作品でした。

映画版の監督に抜擢されたのは『クレイジー・リッチ!(Crazy Rich Asians)』を成功に導いたジョン・M・チュウ(Jon M. Chu)で、脚本は舞台版に引き続きキアラ・アレグリア・ヒュディス(Quiara Alegría Hudes)が担当しています。主演は『ハミルトン』でアレクサンダー・ハミルトンの息子フィリップを演じたアンソニー・ラモス(Anthony Ramos)。その周りを、オルガ・メレディス(Olga Merediz)やダフネ・ルービン=ヴェガ(Daphne Rubin-Vega)、コーリー・ホーキンズ(Corey Hawkins)などトニー賞ノミネート経験もある実力派キャストたちが固めています。リン=マヌエル・ミランダもカメオ出演し、かき氷(piragua)を売るそうです。
 

舞台版からの変更点

前述したBroadway.comの記事の話。

www.broadway.com

この記事内で、インタビューを受けた『イン・ザ・ハイツ』関係者が、映画化の際に新たに書き加えられたサイドストーリーを二つ挙げていて、それが興味深かったので以下にまとめます。

①登場人物の一人が不法移民(滞在許可証を持たない移民)だと明かされる

脚本を手掛けたキアラ・アレグリア・ヒュディスによると、映画版では、あるキャラクターが不法移民(滞在許可証を持たない移民)だと明かされるストーリーラインが新たに加えられたとのこと。このキャラクターはウスナビ以外の人物であり、この変更は、現政権が移民に対して見せている態度を受けてのものだと彼女は語っています。予告編でも、「夢追い人たちがみんな追い出されようとしている。今が声を上げる時だ(They're talking about kicking out all the dreamers. It's time to make some noise.)」という台詞が使われていたり、集まってデモをしている人々の手には「移民の権利は人間の権利(immigrant rights are human rights)」と書かれたプラカードが掲げられていたりすることからも、現在のアメリカ(含む多くの国々)が抱える排外性、民族差別主義などの問題を意識して取り入れ、対抗しようとしている作品であることが伺い知れます。

②ダニエラとカーラが同性カップル

映画化にあたって新たに書き加えられたもう一つの設定は、美容室の経営者でゴシップ好きなダニエラと、そこで働く美容師のカーラが恋人同士だということ。ダニエラを演じるダフネ・ルービン=ヴェガは、「カーラと私はお互いのガールフレンドで、パートナー(Carla and I are girlfriends; we're partners)」であり、それを示す場面が完成版に残されているかは定かではないが、「間違いなく言えるのは、私たちは同棲しているということ(We cohabitate, it's safe to say)」だと語っています。そして記者がその話をジョン・M・チュウ監督に振ると、「力を入れて推し進めてるよ!(We're doubling and tripling down on that!)」との返答があったそう。えーーー絶対入れてくれその場面ーーー!!!ダフネ・ルービン=ヴェガって、『レント』でミミのオリジナルキャストだったあのダフネ・ルービン=ヴェガですよ?そしてカーラを演じるのは『ブルックリン・ナイン-ナイン』でローザを演じ、自身もバイセクシュアルだと公言しているあのステファニー・ベアトリスですよ?最高すぎません?(最高すぎます!)「分かる人には分かる」レベルのほのめかし表現ではなく、映像か台詞でしっかり語られるといいな。

その他変更点

上記二つ以外の変更点で私が知っているものは、"96,000"(宝くじが当たったらそのお金で何をするか夢想する曲)内で使われていた固有名詞の差し替え。

2005年以前に書かれた元の歌詞はこちら。

I'll be a businessman, richer than Nina's daddy!
Donald Trump and I on the links, and he's my caddy!
俺はビジネスマンになるぞ  ニーナの親父さんよりも金持ちのな!
ゴルフ場を一緒に回るのはドナルド・トランプ  彼が俺のキャディーなのさ!

リン=マヌエル・ミランダがツイッターに投稿した動画によると、この「ドナルド・トランプ」の部分が「タイガー・ウッズ」に変更されているとのこと。黒人のベニーが目標として定める人物が(例え「誰もが知る有名な金持ちを顎で使ってやる」という意味だったとしても)ドナルド・トランプっていうのは今の状況ではちょっと考えらんないもんね。
 

余談

舞台版『イン・ザ・ハイツ』には、ソニーとグラフィティ・ピートが同性カップルという非公式なのか公式なのかよく分からない設定*があるようなのですが、そちらはどうなるんでしょうね。ソニーはほぼ間違いなく未成年なので、グラフィティ・ピートが成人だとしたら成り立たない(成り立たせてはいけない)関係性ですが、グラフィティ・ピートって一体いくつなんですかね?

*非公式と言い切れないのは、リン=マヌエル・ミランダが自ら話題にしているため。以下、例。

↑これは、(文脈はよく分かりませんが)「ソニーとグラフィティ・ピートがイチャイチャしてる話を読む方がずっといいね」と言って、ソニー/グラフィティ・ピートのファンフィクション小説へのリンクを貼るリン=マヌエル・ミランダ。

GP(訳注:グラフィティ・ピート):…やってあげられるけど、一晩中かかるぞ。
ソニー:君と僕だけの秘密ね、分かった?
[二人はキスをする]

–初期の『ハイツ』原稿

↑これは自らファンフィクション(?)を生み出すリン=マヌエル・ミランダ。

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映画『イン・ザ・ハイツ』はアメリカでは2020年6月26日公開。日本でも2020年夏に劇場公開されるようです。