空が青くて涙が出るよ

ブログタイトルはビートルズのBecauseという曲からです。深い意味はありません。

ポッドキャスト聴きながら第91回アカデミー賞振り返り

最近聴き始めたポッドキャスト"Keep It"に合わせてアカデミー賞を振り返ろうの回。

"Keep It"とは

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アイラ・マディソン三世(Ira Madison Ⅲ, 写真中央)、カラ・ブラウン(Kara Brown, 写真左)、ルイス・ヴァーテル(Louis Virtel, 写真右)の三人がホストを務め、映画や音楽などのポップカルチャーや政治などの時事ネタを中心に取り扱うポッドキャスト。毎週水曜(日本時間21時ごろ)配信。番組名になっている"Keep It"とは、「失せろを優しく言い換えた言葉(nicer way to say f**k off)」で、「結構です(no thank you)」「いりません(I don't want this)」に近い意味らしいです。毎回番組の最後に"Keep It"コーナーがあって、その週話題になったものの中から「もうそれ勘弁して」と思うもの(keep itしたいもの)をピックアップし理由と共に一人ずつ発表していきます。

Keep It 2019/2/27回

アカデミー賞直後の"Keep It"がこちら。カラはパリにいたのでこの前の回(アカデミー賞直前特別編)に引き続き今回もお休み(アイラ曰く「次回はオスカーの話だよと聞いた途端飛行機に乗って逃亡した」)。代わりに俳優のリーリー・チェイニー(Rheeqrheeq Chainey)がゲストホストとして参加しています(リーリー曰く「あなたたちの考えが間違ってる時に車の中でではなく実際にわめき返すことができるなんて感激」)。
crooked.com

この回は全部で1時間20分ほどありちょっと長めなんですが、アカデミー賞関連の話は最初の30分ほどと、最後の"Keep It"コーナー内の5分ほど、それに38:00ごろから始まる「『シンプル・フェイバー』はアカデミー賞に値するくらい素晴らしかった」というアツい語り2分ほどです。

がっつりアカデミー賞の話をしている最初の30分は動画でも見られます。
www.youtube.com

一部抜粋。

〜ルース・E・カーターの受賞〜
(21:13~)(動画15:02~)
アイラ:それ(グレン・クローズが受賞を逃したこと)以外では、歴史的な勝利がいくつかあったよね。
リーリー:うん。
アイラ:衣装デザイン部門でのルース・E・カーターの受賞。
リーリー:ドレスにマッチした彼女のメモカード…!
アイラ:泣いた。
リーリー:美しかった。
ルイス:式の前に彼女にもインタビューしたんだけど、彼女輝いてたよ。注目すべき点は、今年は美術部門で『ブラックパンサー』の受賞、衣裳デザイン部門でルース・カーターの受賞があり、それらは演技部門を除いた黒人女性の受賞としては、1984年にアイリーン・カラが『フラッシュダンス』で受賞した時以来初だった。ちなみに、それで終わりだよ。彼女たち以外に非演技部門で受賞した黒人女性は一人もいない。
リーリー:三倍にしてやったよ、みんな!ブラックパンサーがやってのけた!
アイラ:更に、一晩で一人よりも多くの黒人女性がオスカーを手にしたのもこれが初。
ルイス:ああ、ひどい。
リーリー:だから…そういうこと。
アイラ:ルースは初仕事を…彼女がスパイク・リーに感謝していたのすごく良かった。スパイク・リーに感謝を述べる人々でいっぱいの夜だったね。彼はオスカーにずっと無視され続けてきた人で、そのこと(スパイクに感謝する人がたくさんいたこと)が黒人コミュニティがお互いのためにどれだけ多くのことをしてきたかを表していた。
リーリー:そしてずっと存在していたということを。
アイラ:ずっと存在していたということをね。
リーリー:真新しいことじゃないんだよ。
アイラ:そう。ナショナル・レビュー誌に白人向けの超ばかげた記事があって。
リーリー:うん。
アイラ:その記事には「スターがいない!」とか「レジーナ・キングって誰?」とか書かれてた。あのね、レジーナはずっとキングだったの。
ルイス:『227』のファンいるでしょ?
リーリー:ふざけんな。ふざけんなだよ。
アイラ:アメリカはレジーナ・キングと共に成長してきたんだ、そうでしょ?それにサミュエル・L(・ジャクソン)やスパイク・リーと共に我々は成長してきた。ルースはスパイクが88年の『スクール・デイズ(School Daze)』で初仕事をくれたって話をしていたけど、彼女はその時から今までずっと業界にいて、数十年間に渡って映画やテレビドラマを作り続けてきたんだ。黒人歴史月間(Black History Month)中はツイッターで#28DaysOfCostumeDesign(衣装デザインの28日間)のハッシュタグで彼女が長年手がけてきた衣装について語っていて、彼女は『となりのサインフェルド』のパイロット版エピソードだって担当していた。
ルイス:すごいな。
アイラ:それで彼女は「ジェリー(・サインフェルド)のアパートに行って、服に目を通しながら何が彼に合うか考え出すのはとても楽しかった」ということを話してた。
リーリー:あのライトウォッシュド・ジーンズ(light-washed jeans)…
アイラ:だから「彼女を評価しようとしないのは君ら白人じゃないか、『フレンズ』を除いた中では最も白人的だと言えるテレビドラマだって彼女は手がけたのに」って感じだよ。
(24:28~)(動画18:24~)
ルイス:ルース・カーターの対抗馬はサンディ・パウエルで、彼女は二つの異なる映画の衣装で候補に挙がっていた。『メリー・ポピンズ リターンズ』と『女王陛下のお気に入り』でね。この女性が一年で二度ノミネートされるのは三回目で、彼女は時代劇の女王のような人なんだ。彼女は『ヴィクトリア女王 世紀の愛』で受賞し、『アビエイター』と『恋におちたシェイクスピア』でも受賞した。そして彼女自身が、最後にオスカーを受賞した時に強調していたんだ、「時代劇だけではなくもっと多くのものを表彰する必要がある」というようなことを。だからこれは彼女の賛同の上での勝利だったとも言えると思う。

〜グリーンブックの受賞〜
(27:30~)(動画21:32~)

アイラ:『グリーンブック』が勝った時の、あのステージに向かう白人の隊列ね。楽しくて多様性あるオスカーが差し出されたなと思ってたら、はっきり思い出させられた、これがハリウッドの本当の姿なんだって。
ルイス:だね。
アイラ:彼らなしじゃ作ることができないんだ、映画でも何でも。ミンディ・ケイリング(カリング)がワーナーブラザーズと契約した時に言ってたのが、「勤勉に働けばどうにかなると思ってたけれど、後にそれは違うんだと気付いた。何をするにも機会を与えてくれる人がいなければだめなんだって」ということ。

リーリー:そしてその人っていうのが白人男性たち…
アイラ:ステージに登る白人男性たちなんだよ!
リーリー:うん…あの集団が壇上に登って行く様子で目が眩むほど圧倒させられた。
アイラ:人種に関する話があの彼らだけで作られたって…。しかもその内の一人は9/11の時に「ムスリムの人々が祝っているのを見た」とか言ってしまう人種差別主義者で、もう一人、ピーター・ファレリーは自分のペニスを露出した話が出てきていて、その話っていうのも90年代のプレイボーイか何かでのインタビュー*1でなされたもので、今まで本当の意味で問題にされてこなかったわけ。なぜならそれはハリウッドでは「笑える、イケてる男がやること」だから。
リーリー:「愛すべき仕草」だからね。
ルイス:それにドン・シャーリーの家族が製作に関わってないこととか。
リーリー:そしてドン・シャーリーがプロデューサーたちから感謝の意を述べられなかったことも。私はそのことをひどく腹立たしく思ってる。
 
(29:13~)(動画23:18~)
リーリー:私が本当にクレイジーだと感じたのは、彼ら(グリーンブック製作者たち)がいかにも自分たちは正しいという態度で、自らに誇りを持っていたこと、黒人が体験した困難と忍耐に関する物語で自分たちを中心に置いたことに対してね。これは本当のところドクター・シャーリーの物語で、黒人たちが類い稀な才能を発揮し音楽の分野で文化的革命をもたらした話で、その音楽を国と分かち合おうと彼らは自らの命を懸けたの、盗用されないようにね。でも、ヴィゴ・モーテンセンがいなければその映画は作られなかったってわけ*2。彼抜きにしても、もうほんと…頼むから黒人の物語の中心に黒人を据えるのを拒否することで自らを賞賛するのをやめて(please stop congratulating yourselves for refusing to let black people be the center of their own stories)。おかしいよ。
ルイス:だね。
アイラ:似た話で、ピーター・ファレリーは前にインタビューで、自分たちは障害者コミュニティに多大な貢献をしてきたんだみたいなことを言ってたんだよ、彼らの古いコメディー作品の多くに障害者のキャラクターを出してたからってだけで。彼らはいつも物笑いの種のような扱われ方だったのに。
ルイス:うん。混同されがちなのが、前に話したように、今年はある意味では多様性に勝利をもたらした年だった。複数の黒人女性が受賞したりね。でも、人々…中部の人々と言ってしまっていいかな…は、グリーンブックの受賞をこの勝利と同列のものとして捉えているように感じる。これは多様性の勝利の一端なんだって。それで僕は、「いや、違うでしょ、もう少しだけよく考えてよ、あの映画が実際のところ誰のために作られていたか、そして誰のために作られるべきだったか、誰を携わらせるべきだったか」ってなる。批判的に扱われ続けることを願ってるよ。

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アカデミー賞直前の"Keep It"特別エピソードでも、アカデミー賞において黒人たちの功績がどれだけ軽視されてきたかという話や、黒人俳優と白人俳優では得られる機会の数から圧倒的に差がつけられているという話をしていたので、その部分も抜粋して載せておきます。

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スパイク・リーが無視された年〜
(11:20~)(動画9:52~)

アイラ:ええと、脚本についての話をするならば、スパイク・リーは『ドゥ・ザ・ライト・シング』で…
ルイス:うん。
アイラ:勝てたはずだと思う。
ルイス:そうだね。
アイラ:だよね。聞いて、『いまを生きる(Dead Poets Society)』は良い映画だと思うよ。でも、それは脚本というよりも演技の成果だと思うんだ。
ルイス:うん。あの映画に独創的と言えるようなところは別になかった。カリスマ性はあったけど、脚本に特筆すべき独自性はなかった。それに、キム・ベイシンガーの話をすれば(この少し前にキム・ベイシンガーの話をしていた)…覚えてる?あの年、彼女がステージに立って、いかに『ドゥ・ザ・ライト・シング』が冷遇されているかについて話したの。式典中にだよ。これはみんなが問題を理解するのに何年もかかったって話じゃないんだ。
アイラ:ああ、そうだね。
ルイス:当時もみんな知ってた、あの作品がすごく冷たくあしらわれたということを。だからキム・ベイシンガーが台本にない発言を生放送中にしたのはそりゃもうかっこよかったね。
アイラ:だからみんなキム・ベイシンガーが大好きなんだよ。

こちらがその時のキム・ベイシンガーの動画(1:33頃~)。噂に違わず超かっこいいです。
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〜白人の若い女優には賞を与え黒人の若い女優には役を得る機会すら与えないハリウッド〜
(12:22~)(動画10:57~)

ルイス:あのね、『ラ・ラ・ランド』を嫌うのはそんなにクールなことじゃないと僕は思う。僕はあの映画は最低でもBマイナスだと思うんだ。エマ・ストーンライアン・ゴズリング間の確執が、彼女が街から出て行くだか彼が街から出て行くだかでほどんど会えなくなるみたいなことだったのはそんなに説得力がないなと僕は思ったけど、そのほかの点ではあの映画はまあ良かった。
アイラ:でも演技部門でのノミネーションは-
ルイス:そう。
アイラ:エマ・ストーンの。
ルイス:そして受賞ね、エマ・ストーンの。
アイラ:『ジャッキー(Jackie)』を破っての。
ルイス:それとイザベル・ユペール。『エル ELLE』観た?
アイラ:『エル ELLE』は観た。
(13:04~)(動画11:40~)
ルイス:…でね、『ラ・ラ・ランド』と『エル ELLE』を連続して観たら、「イザベル・ユペールはあの映画(ララランド)のエマ・ストーンよりも弱い演技をしたな」なんて考えは浮かばないよ。そんなこと絶対に思わない。
(14:19~)(動画12:54~)
アイラ:キキ(・レイン)があるインタビューで合理的な発言をしていて、彼女は「黒人女性のために用意された重要性のある役というものが本当に少ないんです。自分くらいの年齢の女性だと特に。エマ・ストーンジェニファー・ローレンスシアーシャ・ローナンを見てみると、彼女らは複数回アカデミー賞を受賞したりノミネートされたりしてる。一方でヴァイオラ(・デイヴィス)やアンジェラ・バセットに目を向けると、彼女たちは一度や二度程度で、アンジェラの場合は受賞すらしていません」と。
ルイス:だね。
アイラ:エマ・ストーンナタリー・ポートマンイザベル・ユペールを抑えて受賞するっていうのも奇妙なことのように思えるけど、オスカーってそういうことをするんだよ。若くて白人で新参の女優に賞をあげるの。それってすごく変だよね、黒人の女優だったら同じものを得られないことを考えると。
ルイス:うん。
アイラ:つまり、ヴァイオラは若い頃そういうものを得られなかったし、アンジェラも若い頃そういうものを得られなかった。僕は、キキは『ビールストリートの恋人たち』で、『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーン以上とはいかなかったとしても同等ぐらいの演技はしていたと主張するよ。
ルイス:そうだね。それに考えてみると興味深いのが…ジェニファー・ローレンスを悪くいう意図はないよ、彼女は真っ当な俳優で映画スターだからね。でも、彼女は20代にして、一人の黒人女優(それが誰であっても)が全キャリアを通して受けた数よりも多くのオスカーノミネーションを受けてる。これがある意味全てを物語ってるよね。
(24:03~)(動画17:13~)
アイラ:僕が思うに、バリー・ジェンキンススパイク・リーのような映画制作者にもっと機会を与える必要があるんだよ、黒人俳優のための映画を作る機会を。他の誰もそれをやってないんだから。

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『グリーンブック』、公開前は怖いもの見たさでちょっと観に行きたい気持ちもあったんですが、アカデミー賞での作品賞&脚本賞の受賞とそれに対する(主に黒人コミュニティからの)猛批判を見ていてその気持ちもなくなりました。どんなに「良い映画」だったとしても、(本来主役となって当然だったはずの)黒人たちの批判的意見を無視してまで無邪気に楽しめるとは思えないし楽しもうとも思わないし、1000円とか2000円払ってまで(制作者の意図にはない)居心地の悪さを感じたりイヤな思いをしたりしたくないので…。映画を観てない人間の意見なので適当に受け流してくれて構わないんですが、映画の舞台となっている60年代から50年以上が経った今でも人種差別は無くなっておらず、黒人が黒人であったというだけで警官に命を奪われる事件が現実に起きたりしている中で、白人目線で「差別(心)を乗り越えた私たち」映画を作り、自分たちだけヒーローになったかのような「良い気持ち」に浸ろうとする(浸らせようとする)のってどうなんですかね…?グロテスクじゃない…?

まあそうでなくても今は差別問題を美しい映像と共に丁寧に描いた『ビールストリートの恋人たち』や、女性たちが輝いていて超クィアな『女王陛下のお気に入り』、まだ観に行けてませんがとても評判の良い『金子文子と朴烈』など他に良い映画・観たい映画たくさんやってますし、私はそっちにお金を回そうかなと思います。『スパイダーマン:スパイダーバース』は30回くらい観たいし…。スパイク・リーの『ブラック・クランズマン』もそろそろ始まりますし!楽しみ!

アカデミー賞の話あんまりできてないような気もしますが、疲れてきたのでタキシードドレス姿で授賞式会場に登場したビリー・ポーターの写真を置いて終わりにします。

何度見ても叫びたくなるほどのゴージャスさ…。このドレスをデザインしたのはクリスチャン・シリアーノで、『プロジェクト・ランウェイ』卒業者がこうやって活躍している様子を見られたのも嬉しい。

*1:プレイボーイではなくニューズウィークでした

*2:作品賞受賞時のスピーチでピーター・ファレリーが「ヴィゴがいなければ始まらなかった」と述べた