間違いなく今アツいミュージカル、"Dear Evan Hansen"。
観たくてたまらないけど「ちょっとニューヨークまでひとっ飛び」できる状況ではないので、公式サイトにて聴くことのできる"Waving Through A Window"という曲を中心に現在の自分の感情をだらだらと残しておくことにしました。
観てもない作品の予想妄想の他、下手な和訳なども多々含まれているのでお気を付けください。英語力と渡航費、ください。
おおまかなこと
"Dear Evan Hansen"は昨年12月にニューヨーク・ブロードウェイにてオープンしたばかりのミュージカル。プレビューの段階から各メディアで絶賛されていて、公開されている歌曲も言うことないほど素晴らしい完成度のものばかり。登場人物は8人で、タイトルにもある通りエヴァン・ハンセンがこの物語の主役。
こんな話(公式サイトより)
見せるはずのなかった手紙。
言うはずのなかった嘘。
手に入れられると夢にも思わなかった人生。
エヴァン・ハンセンはずっと望んでいたあるものを遂に手にしようとしている-社会に溶け込むチャンスを。
・・・まあざっくりしてますよね。公式サイト見たとき「これだけ?!」って思ったことは忘れない。ミステリアスで興味は湧くけど何もわからない・・・。
あるテレビ番組のインタビューで、主役エヴァン・ハンセンを演じるベン・プラットはショーについて訊かれたとき、こんな説明をしています。
「この作品は原作のない完全なるオリジナルストーリーで、孤独で社交不安を抱えている高校3年生の男の子の話なんだ。彼は亡くなった同級生と友達だったと嘘をついてしまったことで、「友達」として、他の人にはできない方法でその同級生の家族を癒す手助けをする状況に置かれる。同時にその家族はエヴァンが今まで手に入れることができなかった心地良い居場所を与えてくれるんだけど、この関係は全部一つの嘘を前提に成り立っているんだ。」
公式サイトにある「見せるはずのなかった手紙」というのは、エヴァンがセラピーの一貫で書いた手紙のことで、「親友から自分に向けられた手紙」として書かれているもの。この手紙が発端となり「エヴァンと死んだ同級生は親友だった」という勘違いが生まれてしまうみたいです。タイトルの"Dear Evan Hansen"もそのまま手紙の始まりの文と重なっています。
"Waving Through A Window"という曲
ここから本題。なんで私がこれほどまで観たこともないこのミュージカルに魅了されているかというと、もう「この"Waving Through A Window"という曲を聴いてしまったから」としか言えません。現段階で聴ける曲は他にも3曲ほどあってどれも本当に素晴らしいし、Geniusという歌詞サイトに上がっている全曲分の歌詞を読むだけでも涙がこぼれそうになるくらい感動するのですが、それでも、やっぱり、この曲なしには語れないんじゃないかと。一日一回以上は必ず聴いてます。大好きです。
米番組内での"Waving Through A Window"のパフォーマンス↓消されていたので公式が公開しているキャストレコーディングを貼っておきます
www.youtube.com
ライブパフォーマンス↓
www.youtube.com
以下、歌詞と和訳
(一応訳してはみてますが韻もへったくれもない上に日本語力の無さが露呈してて気まずいので英語読める人は英語だけ読んでください。言うまでもないことですが何億倍も良い歌詞なので。)
I've learned to slam on the brake
ブレーキを踏んできた
Before I even turn the key
鍵を回す前に
Before I make the mistake
失敗する前に
Before I lead with the worst of me
一番嫌いな自分を見せる前に
Give them no reason to stare
じろじろ見られる理由を与えるな
No slipping up if you slip away
静かに立ち去ればヘマをすることもない
So I've got nothing to share
聞いて欲しいことは何もない
No, I got nothing to say
そう、話すことは何もない
[Pre-Chorus]
Step out, step out of the sun
太陽から遠ざかれ
If you keep getting burned
火傷を負い続けるくらいなら
Step out, step out of the sun
陽の当たらないところへ逃げるんだ
Because you've learned, because you've learned
今までそうやってきたんだから
[Chorus]
On the outside always looking in
外から中を覗く日々
Will I ever be more than I've always been?
いつかこの自分を超えられるのか
'cause I'm tap, tap, tapping on the glass
ガラスを叩き続けてるんだから
I'm waving through a window
窓越しに手を振って
I try to speak, but nobody can hear
絞り出そうとした声は誰の耳にも届かない
So I wait around for an answer to appear
だから答えが見つかるまで周りをうろつく
While I'm watch, watch, watching people pass
みんなが通り過ぎていくのを眺めながら
I'm waving through a window
僕は窓越しに手を振ってる
Oh, can anybody see, is anybody waving
Back at me?
誰にも見えてないの、誰か手を振り返してる人は?
We start with stars in our eyes
誰だって最初は目を輝かせて
We start believing that we belong
居場所があるって信じ込むんだ
But every sun doesn't rise
だけど全部の陽が昇るわけじゃない
And no one tells you where you went wrong
どこで間違えたかなんて教えてくれる人はいない
[Pre-Chorus]
[Chorus]
[Verse]
When you're falling in a forest and there's nobody around
Do you ever really crash, or even make a sound ×4
森で倒れて周りに誰もいなかったとき
本当に倒れたと言えるのか、音を立てたと言えるのか ×4
Did I even make a sound
僕は音を立てたのか
Did I even make a sound
僕は音を立てたのか
It's like I never made a sound
一度だって音を立てたことがないみたいだ
Will I ever make a sound?
僕が音を立てる日は来るのか?
[Chorus]
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「ミュージカルを構成している曲の一つ」という枠を超えた、普通にポップソングとしてかかってても不思議じゃないくらいキャッチーで完璧な曲なんじゃないかと思います。その一方で「ミュージカルの構成曲の一つ」としての役割もきちんと果たしていて、物語の主役を担うエヴァンの人柄、痛みが歌を通じて直に観客の心に響くようになっています。
ベン・プラットがインタビューでも言っているように、エヴァンは社交不安を抱えていて、うまく周りの社会に適合できないでいるキャラクターです。「人に話しかけたいし関わりたい、でも失敗して火傷するのが怖い、ヘマして傷つくくらいなら最初から人付き合いを避けよう、、僕だけみんなの輪の外にいるみたいだ、、でももしかしたら誰かが僕に気づいてくれるかもしれない、、」というような、誰もが少なからず経験したことがあるであろう感情が剥き出しになって歌われていて、もう、痛い、心が。
特に好きなのは、途中で4度も繰り返される
When you're falling in a forest and there's nobody around
Do you ever really crash or even make a sound
から始まる部分。最初何を言ってるのか私には全く理解できなかったんですが、これは有名な哲学的思考実験を元にしているみたいです。その思考実験で問われたのは、
"If a tree falls in a forest and no one is around to hear it, does it make a sound?"
というもの。日本語だと「周りに誰もいない森の中で木が倒れたら音はするのか」という感じでしょうか。
そしてこの問いに対する一つの結論は、木が倒れることで空気が振動し音波は発生するが、それを「音」として知覚する人間がいないため「音はしない」なのだそう。
この問いかけは"Dear Evan Hansen"という作品の根幹にあるテーマとも密接に結びついていると思われます。
歌詞に戻ると、このミュージカルでは「木」を「人」、もっと言うと「エヴァン」に置き換えています。最初に載せたポスターからも分かる通り、エヴァンは左腕にギプスをはめているのが特徴的で、これは「木から落ちて腕を折った」ためだということが劇中で明らかになるみたいです。先ほどの一節(When you're falling in a forest and there's nobody around / Do you ever really crash or even make a sound)では「周りに誰もいない森で倒れたとき、本当に倒れたと言えるのか、音がしたといえるのか」という一般論を展開し、次の節では「自分は音を立てたのか」(Did I even make a sound)とエヴァンが彼自身に問いかける形になっています。
木から落ちたんだからそりゃもちろん枝が折れる音なりうめき声なり何かしら音は立てたでしょう。しかし、先ほどの思考実験に当てはめると、周りにその音を知覚する人間がいなかったらその音は存在しないことになります。これってとても怖いことなんじゃないでしょうか。木から落ちたときの音なんて誰にも聞かれてなくてもかまわない、腕が折れたくらいなら大したことないと思うかもしれません。しかし、周りに音を認知する人間がいないと音は存在しないというならば、人付き合いを避け続けた結果、周りに彼を認知してくれる人間がいないエヴァンは彼自身「存在しない」ということになります。
"Did I even make a sound"という台詞は「木から落ちたときに自分は音を発したと言えるのか」という、特定の状況下での問いになっていますが、それに続く"It's like I never made a sound"では、「僕は一度も音を発したことがないんじゃないか(自分は存在してるといえないんじゃないか)」と、エヴァンが自分の生き方を振り返る形になっています。そして最後、"Will I ever make a sound"「僕がこれから音を立てる日はくるのか(社交不安を克服して人と関わり合うことができるのか)」と、社会に認知されないまま、存在しないまま自分はこれからも生きていかなければいけないのかもしれないといった未来への不安感を歌い出しています。ここで今まで盛り上げてきたバックミュージックをピタッと止める演出も上手い。憎い。
ソーシャルネットワークが発達し誰もが誰かと常につながり評価を下し合うこの時代。社会の輪に入り込みたくても入れない、社交不安を抱える人の心の叫びをそのまま体現したような、そんな曲です。
Dear Evan Hansen公式サイトでは"Waving Through A Window"に加え、"Only Us"というデュエット曲がクリアな音質で聴くことができます。無料です。神はいます。
アルバムはダウンロード版が2月3日、CDが2月24日発売予定となっています。