空が青くて涙が出るよ

ブログタイトルはビートルズのBecauseという曲からです。深い意味はありません。

アンソニー・ラップが経験した性的被害の告白とケヴィン・スペイシーの「謝罪文」

10月30日に、ミュージカル『RENT』のオリジナルキャストであり現在は『スタートレックディスカバリー』に出演中の俳優アンソニー・ラップが、14才の頃に受けた性的被害の経験をBuzzFeedに語った記事が掲載されました。告発相手は『ユージュアル・サスペクツ』と『アメリカン・ビューティー』でアカデミー賞を受賞し、『ベイビー・ドライバー』への出演が記憶に新しい俳優ケヴィン・スペイシー。これを受けてケヴィン・スペイシーは自身のツイッターに謝罪文を載せましたが、その内容がちょっと酷すぎるので各方面から非難が殺到しています。

とても個人的なことなんですが、私「人生に影響を与えた作品」を選ぶとしたら『アメリカン・ビューティー』と『RENT』は確実にランクインさせる人間だったのでこの一連の出来事に自分でもびっくりするくらいダメージ受けてます。このブログでも20記事中4記事くらいでアメリカンビューティーの話を差し込んできた気がしますし。久しぶりのブログの更新がまさかこんな話題になるとはね。 

アンソニー・ラップがBuzzFeedに寄せた告発記事がこちら。/「俳優アンソニー・ラップ:14のときケヴィン・スペイシーに性的関係を持ちかけられた」
www.buzzfeed.com

記事内の文章の引用。

In an interview with BuzzFeed News, Rapp is publicly alleging for the first time that in 1986, Spacey befriended Rapp while they both performed on Broadway shows, invited Rapp over to his apartment for a party, and, at the end of the night, picked Rapp up, placed him on his bed, and climbed on top of him, making a sexual advance. According to public records, Spacey was 26. Rapp was 14.
1986年、両人がブロードウェイの劇に出演していた際にスペイシーはラップと友人になり、自身のアパートで開いたパーティーにラップを招いた。そしてその夜の終わりにスペイシーはラップを抱き上げ、ベッドに寝かせ、彼の上に乗り、性的誘惑をしてきたとBuzzFeed Newsのインタビューにてラップは初めて公式に証言した。公記録によると、スペイシーは26才、ラップは14才だった。

アンソニーラップが語った事件そのものの話ももちろんキツいんですが、自身の性的指向にまで話が及ぶのを恐れて母親にその時あったことを打ち明けられなかったという話とか、当時のケヴィンスペイシーは何百といる無名の舞台役者の内の一人でしかなかったから、もう二度とスペイシーを見る機会がないよう願って彼の姿と共に彼から受けた被害の記憶を締め出そうとしたけれど、スペイシーが映画界でも活躍し始めキャリアを花開かせていくに連れて彼が存在しないふりをし続けることができなくなっていったという話とか、長年親しんできたトニー賞を見て初めて恐怖を感じた(今年はケヴィンスペイシーが司会だった)という話とか、も〜〜〜〜読んでてかなりつらいです。これだけでも相当つらいのに、この告発に対してケヴィン・スペイシーが出した「謝罪文」が更につらい。

こちらがその謝罪文。

・・・いや、謝る気あんの???

問題ありすぎて脳みそ沸騰しそうなんですが、とりあえず前半の「謝罪」部分を一文ずつ見ていきますね。

一文目:

I have a lot of respect and admiration for Anthony Rapp as an actor.
私はアンソニー・ラップに俳優として多大な敬意と賞賛を抱いています。

ケヴィン・スペイシーは一人の人間としてアンソニー・ラップに敬意と賞賛を示すべきであって、「俳優として」なんて限定的な記述をする意味がわかりません。俳優であることも俳優としての功績もここでは関係ない。

二文目:

I'm beyond horrified to hear this story.
私は彼の話を聞き、とても恐怖を感じています。

事件の加害者として告発されてるのになんでこんな人ごとのような口ぶりなの。怖い。

三文目:

I honestly do not remember the encounter, it would have been over 30 years ago.
正直に言うとその接触を私は覚えていません、それは30年以上前のことだったようです。

「30年以上も前のこと」なんて、その同じ30年以上もの間苦しみを抱え続けてきた(そしてこれからもその苦しみが完全に消えることはないであろう)アンソニー・ラップに対して言うことではないです。

四文目:

But if I did behave then as he describes, I owe him the sincerest apology for what would have been deeply inappropriate drunken behavior, and I am sorry for the feelings he describes having carried with him all these years.
しかし、もしその時彼の言うような行動を私が取ったならば、泥酔状態での不適切な振る舞いであったであろうその行動について心から謝らなければいけません。そして彼がずっと抱えてきたと言っている感情について申し訳なく思います。

当たり前のことですが、「酔っていた」ことは未成年に性的暴行を働くことへの免罪符にも説明にも言い訳にもなりません。ここで’apology’と’sorry’という謝罪の言葉を使っていますが、前者は「もしその話が本当なら」という文脈の中での謝罪であり、後者は「アンソニー・ラップが抱えてきたと主張している感情」に対する謝罪(というか同情?)なので、ほんと、謝る気あんの?という感じ。

この前半部分だけで既に最低な謝罪文として完成しているんですが、驚くことに後半はさらにひどいです。

後半:

This story has encouraged me to address other things about my life. I know that there are stories out there about me and that some have been fueled by the fact that I have been so protective of my privacy. As those closest to me know, in my life I have had relationships with both men and women. I have loved and had romantic encounters with men throughout my life, and I choose now to live as a gay man. I want to deal with this honestly and openly and that starts with examining my own behavior.
この話は私の人生における他の事柄にも言及する勇気を私に与えてくれました。世間には私に関する様々な噂が存在することも、私が自身のプライバシーを秘密にしてきたことがいくつかの噂を煽ってきたことも知っています。私に近しい人たちは既にご存知のように、私は男性とも女性とも関係を持ってきました。私はこれまでの人生で男性を愛してきましたし、男性とロマンチックな出会いをしてきました。そして今後はゲイ男性として生きることを選びます。正直に、オープンにこのことについて対処していきたいですし、自身の振る舞いを見直していきたいです。

これ丸々全て謝罪文には必要のない「告白」ですよね。まず’encouraged me’ってなんなの???’This story’(アンソニー・ラップがケヴィン・スペイシーから受けた性被害の告白)が「過去に男性とも女性とも付き合ってきたことを認め、これからはゲイ男性として生きることに決めた」と表明する勇気を与えてくれたって何???選択する言葉も内容もおかしすぎる。

カミングアウトをするのかしないのか、するとしたらどのタイミングでどのようにするのかは完全に個人の自由であり、他人にそれを強要する権利はありません。しかし、未成年への性的暴行の告発に対するレスポンスとして「同性愛者だと認める」というのはあまりにも間違っています。ここでは「大人」であったケヴィン・スペイシーが「子供」であったアンソニー・ラップに性的接触をしたことが一番の問題であり唯一の問題なので、彼のセクシュアリティは全く関係ありません。それにも関わらず、自身がゲイであることを言い訳のように持ち出すのは「同性愛者=小児性愛者、性犯罪者」という、間違ったステレオタイプ像に力を与えかねない非常に危険で許されない行為だと思います。自分の犯した罪からの 「逃げ」としてカミングアウトを使ったケヴィンスペイシーは、プライドを持ってカムアウトした性的マイノリティたちに対しても、間違ったステレオタイプ像を打ち崩そうと努力してきたアクティビストたちに対しても、ロールモデルを探し求める性的マイノリティの子供たちに対しても、今回被害の告発をしたアンソニー・ラップに対しても不誠実すぎます。

このカミングアウトを受け、『HEROES/ヒーローズ』やJJエイブラムス版『スタートレック』シリーズに出演し自身もゲイであることを2011年に公表した俳優ザッカリー・クイントがツイッターで出した声明がすごく的を射ていたのでそのまま引用させていただきます。

It is deeply sad and troubling that this is how kevin spacey has chosen to come out. not by standing up as a point of pride - in the light of all his many awards and accomplishments – thus inspiring tens of thousands of struggling LGBTQ kids around the world. but as a calculated manipulation to deflect attention from the very serious accusation that he attempted to molest one. i am sorry to hear of anthony rapp’s experience and subsequent suffering. and i am sorry that kevin only saw fit to acknowledge his truth when he thought it would serve him – just as his denial served him for so many years. may anthony rapp’s voice be the one which is amplified here. victim’s voices are the ones that deserve to be heard.
ケヴィン・スペイシーがこのようにカムアウトすることを選んだのが非常に悲しく心が痛いです。彼の得た多くの賞や成し遂げた偉業の光の中で-誇りを持って立ち上がり-世界中にいる何万人もの苦しむLGBTQの子供たちを元気付けるのではなく、子供に性的虐待をしようとしたという非常に重大な告発から注意をそらすための計算尽くのごまかしとして行ったことが。アンソニー・ラップの経験したこととその後の苦しみを聞き残念に思います。そして、ケヴィンが長年にわたる否認と同じようにそれが彼にとって役に立つと思った時に自身の真実を認める気になったことを残念に思います。広まるのがアンソニー・ラップの声の方でありますように。耳を傾けられるべきものは被害者の声です。

ザッカリー・クイントの言う通り、ここで注目されるべきは被害者アンソニー・ラップの声であり、加害者ケヴィン・スペイシーの「告白」ではありません。英語ニュースメディアでも日本語ニュースメディアでも、「ケヴィン・スペイシーのカミングアウト」ばかりを取り上げ大きく見出しにしているものは本来の事件を矮小化するのに手を貸していると言っていいと思いますし、非常に不快です。何を考えているんだ。

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ところで10月31日はハロウィンであり私の誕生日でもあリました。

ハッピーバースデー私!