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『ブラックパンサー』は他のヒーロー映画とどう違うのか

ザ・デイリー・ショー(The Daily Show)の『ブラックパンサー』関連回特集、第二回目。今回は、超カッコよくて超強くて超賢くて超素敵なキャラクター、ナキアを演じたルピタ・ニョンゴのインタビューです。

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第一回目はこちら。

nicjaga.hatenablog.com

ルピタ・ニョンゴは、デイリーショーの司会であるトレヴァー・ノアが書いたとんでもなく面白い自伝"Born a Crime"の映画版でトレヴァーのお母さんを演じることも決定しています。監督は主に演劇界で活躍し2016年にはトニー賞にもノミネートされた南アフリカ出身のリースル・トミー。ワクワクが止まらない。(5月に発売されるらしい邦訳版はこちら

はい、そんなルピタ・ニョンゴのインタビュー。『ブラックパンサー』は「ただのスーパーヒーロー映画」ではないよという話からルピタの筋肉の話まで盛り沢山です。

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トレヴァー:番組に戻って来てくれてありがとう。

ルピタ:どうもありがとう。

トレヴァー:会えてとても嬉しいよ。それに、おめでとう。『ブラックパンサー』が今まさに9日間で5億ドルを稼ぐほどの軌道に乗っているらしいね。

[歓声と拍手]

トレヴァー:映画を観た他のみんなと同じくらい大喜びしてる?

ルピタ:ええ、たぶんみんなよりちょっと多めにね。この映画が成し遂げていることは本当に驚きで、私たちも予想できなかったことだった。興行収入でとっても寛大な額が集まってるってことだけではなくて、この世界に与えている影響もね。私初めて見たの、誰かが他の誰かのためにお金を払って映画を観に行かせるなんてことをね。そういうことが起こってる。コミュニティーでの努力の成果になっていて、それって素晴らしいことだと思う。

トレヴァー:これは本当に単なるスーパーヒーローの枠を超えたレベルで人々の心に結びついてるよね。だって、まずは基本から始めるけど、この映画は素晴らしい映画で、『ブラックパンサー』は素晴らしいマーベルの映画で、スーパーヒーローの映画だ。だけど深く掘り下げると、この映画は人々が長い間切望してきたものを見せていて、これは、従来とは違う顔、違う人間を見せている。このことは映画を作っている最中に意識していたものだった?作っているときに「なんだかいつもと違うな、これは特別なものかも」と感じることはあった?

ルピタ:ええ、あった。確実にね。ライアン(監督)がストーリーの概要を教えてくれた当初から、私は、ああ、なんてこと、これは私が見たいものだし、これは、これは夢のような話ね、アフリカ人のスーパーヒーローを得られるなんて、って。それに彼は飛ぶし、超カッコいい(badass)し、頭がいいし、彼の周りには超カッコいい(badass)女性たちが大勢いるし、ってね。

[歓声と拍手]

トレヴァー:それでそう、女性たちの話。僕はこれがストーリーの中でも興味深い部分だったと思う。誰にもネタバレはしたくないんだけど、この映画に出てくる女性たちは傍に追いやられている女性なんかではなくて、従属的な女性なんかでもない。そんなんじゃないんだ。この映画の女性たちは様々な役割の中で強大な力を発揮していて(kicking ass)、彼女たちはみんな一人の人間として存在している。君が演じているのは、ティチャラが恋心を抱いている相手であり、様々な面でインスピレーションの源となる人物と言えると思うんだけど、このキャラクターを演じていたときに、何を僕たちに伝えようと努めていたの?

ルピタ:そうね、私が思うに、ライアンは従来とは違う恋愛のストーリーを伝えたかったんだと思う。こういったジャンルでは大抵、恋愛対象者は言い寄られ、最後に勝ち取られる存在で、Bプロットでしかない。彼女はメインストーリーに影響を与えたりしない。だからライアンはそういうのから私たちを解放して、違う姿を見せたがっていた。恋愛関係にあるということ、そして、その関係の中で主体性を持ち続けられるということが何を意味するかをね。だからありきたりのラブストーリーじゃない。ナキアには彼女自身の人生があるの、恋愛してるだけじゃなくてね。そしてそれがとても新鮮な姿に見える。それに、ポジティブな黒人の恋愛像を見ることもできる。

[歓声と拍手]

ルピタ:でしょ?男性がその場にいて、男性は女性の提供できる能力に関心があって、男性が女性に頼り、女性が男性に手を貸すような、そういった健康的な関係で、真の問題について議論できるし格闘できる場になってる。そして個人的な利害関係の外にあるお互いの目的を遂げるために協力し合うの。

トレヴァー:そうだね。アフリカの文化を勉強した歴史通がたくさんいて、彼らがとても気に入ったのは、『ブラックパンサー』がアフリカ文化に対する褒め言葉のように感じられた点だと言っている。映画が意図していたようにね。家父長制社会ではあったけれど、アフリカでは人々は平等で、みんな「いやいやいや、女性たちは様々な役割の中で活躍していたんだよ。様々な文化内で女性がより力を持っていた」と言うような場所だった。君や、また同じように素晴らしいダナイ・グリラが演じたキャラクターたち、君たちは恐ろしく優秀(badass)だった。そして、噂だと思っていたけど本当だと分かったことに関連してるシーンがあって、それは、この映画では誰も髪の毛をストレートにしなかったということなんだ。誰一人として、ヘアアイロンを使ったような髪型の人がいなかった。それがなぜそんなに重要なことだったのか教えてくれる?重要なことだった?

ルピタ:そうね、大陸において本来何が美しいとされてきていたかに立ち返る必要があると思う。白人が現れる以前は、大陸にいる黒人たちは自分たちの髪の毛を使っていろんなことをしてきていた、そうでしょ?だからエクステンションとかそういうもののアイデアは全部、新しいものではないの。でも、縮れ毛や巻き毛のことを恥だと思わせたり拒絶したりするのは、白人の渡来と共に新しく入ってきた考え方。それで、この話の中では、ワカンダは植民地化されたことのない国で、その国民たちは白人の世界について何一つ知らない。だから彼女らは自分たちを受容しているの(they embrace themselves)。彼女らには彼女ら独自の美の基準があって、独自の美の増強方法を持っている。それがストレートヘアを見ることがない理由。 

トレヴァー:みんな真正に、そして美しい形でこの映画に繋がってるように感じる。というのも、この映画は何かを敵視してる(anti)わけじゃなく、ただ肯定してる、良いものとして肯定している(pro)んだ。黒人でいることを楽しみ、黒人でいることで生じる様々な側面を楽しんでいる。僕気づいたんだけど、街中にいる人たちがワカンダ人になっていってるんだ。

ルピタ:ええ、そうなの(笑)

トレヴァー:例えば、(番組の特派員の)ロイがフットロッカーに行って、買い物を済ませたとき、店員が「良い一日を、ブラザー[腕をクロス]」って感じだったって。

ルピタ:[笑いながら]それ最高!

トレヴァー:今ではいろんな人が街中でこういうことをやってるんだ。こういった何かに出くわしたことはある?

ルピタ:ある、ある。昨日私は散歩して、昨日ニューヨークはとっても天気が良かったから、覆面調査で公園まで散歩に出たの。そしたらティーンエイジャーのグループに出くわして、彼らみんな、エムバクみたいに吠えてた(笑)

トレヴァー:それじゃ、彼らがやってたのって...[観客に向かって]映画にはゴリラのような...ゴリラの部族があって、パワフルで、印象的な「ホゥ、ホゥ、ホゥ、ホゥ」みたいな吠え声がね。

ルピタ:そうそう、その通り。彼らそれをやってて。それで、私すっごく楽しくなっちゃって、一人でクスクス笑ってたの。そしたら彼らが「信じられない」みたいな感じになって、そのうちの一人がまだ映画を観てなかったみたいで、彼らは「映画絶対観なきゃ、俺らでミームとかGIFを作れるように!」って(笑)ええ、すごい体験だった。

トレヴァー:これってちょっと変な感覚だったのかな、君は『それでも夜は明ける』に出てた、そうだよね?観客は君のところにやって来て「ああ、ルピタ、信じられない、素晴らしい演技だった」なんて言ったりしてた。そして今はいわゆる「ただのスーパーヒーロー映画」になるはずだった作品に出てるんだけど、でもこの映画の観客たちは君にすごく深い質問を投げかけてるように感じる。黒人であることや、アフリカの文化や、「この映画が黒人たちが直面してる問題を全部解決できるか?」とか、「この映画が過去に起きた過ちを正すことができるか?」とかね。これってちょっと圧倒されてバランスが取れなくなったりしない?

ルピタ:ええ、本当に。私は『それでも夜は明ける』をやって、そこでは色々な深い質問をもらったからプレスツアーに出る前に私はほとんど予習が必要なくらいだった。だからこの映画では、「ああ、楽勝ね、ただのスーパーヒーロー映画なんだから。バーベル上げの話でもしよう」と思ってた。でも、もらう質問はものすごく深くて、みんな本当に心の深い部分でこの映画に繋がってるの。みんなの質問に答えるためだけに博士号が必要なんじゃないかと感じるくらい。

トレヴァー:でも、君は...君はバーベル上げもしたんでしょう?

ルピタ:ええ、した(笑)

トレヴァー:よし、その話をしよう。いや、だって何ヶ月トレーニングしたの?戦闘のために。

ルピタ:えっと、私がトレーニングしたのは4ヶ月くらい...

トレヴァー:取っ組み合いみたいなものを?

ルピタ:ああ、えっと、一番最初はまだニューヨークにいて調整してて、ブートキャンプのための体づくりをしてた。その後、ブートキャンプが6週間あったの。映画を撮り始める前にね。それで私たちはトレーニングを始めて、1日4時間くらいから始まったんだけど、私は疲れ果てちゃって、そして私の体は筋骨たくましくなりすぎちゃって(笑)だからトレーニングを1日2時間に減らしていく必要があった。すごくハードだったの。 

トレヴァー:「いまやこの映画にはブラックパンサーが二人いるぞ。たくましすぎるよ、ルピタ!」ってね。

ルピタ:(笑)ええ、だってその後しばらく服がフィットしなくなったの。腕が石みたいになっちゃったから。私は「オーケー、こういう予定じゃなかった。これ以上スクリーンの場所を奪う必要はないからもうちょっと抑えて」って感じで。

トレヴァー:これについて話さずに君を帰すと職務怠慢になるだろうというニュースが昨日発表されて、どうやら君はプロデューサーと主役を務めることに同意したらしいね、若い南アフリカ人の男の子とその母親についての映画の。驚くべきことにね。何よりも最初に、ありがとうと言いたい。最初にこの本について僕らが話したとき、君は「この本大好き、ストーリーも大好きだし何もかも大好き」と言ってくれて...

ルピタ:あのね、あなたは本当のことを言ってない。だって本当は、私はブラックパンサーのセットにいたときにその本を手に入れて、先行予約してたものをね手に入れて、読んで、そしてあなたにメールを送った。「トレヴァー、お願いだからあなたのお母さんを演じる名誉にあずかれないかしら?」ってね。

[歓声と拍手]

トレヴァー:それで、僕は「うまくいくか分かんないな」って感じだったんだけど。

[笑い声]

トレヴァー:そしたら彼女が自分の筋肉の写真を送ってきて、僕は「あ、母さんだ、これは母さんだよ、君は役にぴったりだ」って。

[笑い声]

トレヴァー:ワクワクしてるよ。君がやっている全てのことに感謝する。『ブラックパンサー』は素晴らしい。君は驚異的だ。またここで会えるだろう。5億ドル稼いでいて、10億ドルにも達するだろうし、続編や他のいろんなところで君の姿が見られるだろうね。ルピタ・ニョンゴでした。

ルピタ:ありがとう。

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ルピタ・ニョンゴの笑い声は心が洗われますね。

インタビューの中盤(5:14~)でトレヴァーノアが少し触れていたように、この映画では、何かを敵視した(anti)語り口にするよりも、黒人でいることの喜びや楽しさを前面に出し、その文化や社会、価値観などを良いものとして肯定し称える(pro)ことに力を注いでいるように感じました。そしてこの姿勢こそが映画全体を美しく眩しく見せている大きな要因の一つなのではないかなと思います。

例えば、インタビューに出てきた「髪の毛」の話。『ブラックパンサー』ヘア部門のトップであるカミール・フレンドは、ニューヨークタイムズのインタビューでこう語っています。

We did a totally Afrocentric, natural hair movie. There was not a pressing comb or relaxer on set. That wasn’t happening. We’re in a moment when people are feeling empowered about being black. And that’s one thing you see when you watch ‘Black Panther.’ The hair helps communicate that.
私たちは完全にアフリカ的価値に重点を置いた、自然な髪の毛の映画を作りました。セットにはヘアアイロンも縮毛矯正剤もありませんでした。そういうことはしなかったのです。私たちは、黒人でいることに自信が持てる時代に生きています。そしてそれが『ブラックパンサー 』を観た際に理解できることの一つです。髪の毛はそれを伝える手助けをしているのです。

たかが髪の毛と思うかもしれませんが、『ブラックパンサー 』のような、マーベルの超大作映画でこれをやってのけたのって本当に意義のあるすごいことなんじゃないかと思います。だってたった数ヶ月前には、雑誌の表紙を飾る際に縮れ毛や編み込みを画像処理で勝手に消される事件があったりしたんですよ(ルピタ・ニョンゴの例と歌手のソランジュの例)?それくらい、「白人的な」ストレートヘアこそ美しく「黒人的な」縮れ毛や巻き毛などは恥ずべきもの、隠すべきものという白人優位的な価値観が浸透していて、テレビや映画で見る黒人女優たちもストレートヘアにするかウィッグを被っていることが多く、ナチュラルヘアのまま活躍している/活躍できている女優ってすごく少ないんです*1。実際に『ブラックパンサー』の役者たちも、フレンドさんにナチュラルヘアで来るよう頼まれた時「本気?(Are you sure?)」という様子だったようです(The Cut)。そんな状況の中で、ビッグスクリーンにこれでもかというほど多くの美しいナチュラルヘアを映して見せた『ブラックパンサー』...これを革新的と言わずに何と呼ぶんですか。

しかも、実際に見てめちゃくちゃ驚いたんですが、「オコエ(頭を丸刈りにしている女性キャラクター)が"外の世界"に適合するためにウィッグを被らされ、そしてそのウィッグを投げ捨てる」シーンすらあるんですよ!製作陣の熱意にもう圧倒されてしまった...眩しい...すごいよ...。そしてこれも、単にオコエが自分自身のそのままの姿にプライドを持っているからウィッグを必要としていないというだけで、別にストレートヘアやウィッグ自体をバッシングしたり敵視したりしているわけではないんですよね。先ほどのニューヨークタイムズの記事で、記者は「当然のことながらストレートヘアが悪いわけではなく、それが縮れ毛や巻き毛や坊主頭よりもどういうわけか好ましいという考え方が問題なのであり、オコエのウィッグのシーンはその考えを平然とはねのける瞬間なのだ」と語っています。眩しい...。

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ブラックパンサー』ほどの規模ではないにしても、近年では配信もののテレビドラマ中心にナチュラルヘアを積極的に肯定するものが増えてきていて、見る機会も多くなってきているような気はします(『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』とか『スター・トレックディスカバリー』とか他にも色々)。個人的に最近印象的だったのは、ゴールデングローブ賞授賞式でのヴィオラ・デイヴィス。とってもゴージャス。美しい。好き。

『殺人を無罪にする方法(How to Get Away with Murder)』でヴィオラ・デイヴィス演じるアナリーズがウィッグを脱ぎ捨てメイクを全て落とすシーンも番組屈指の名シーンでした。好き。

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*1:こんなこと言うと「白人女優だって髪の毛染めてるしヘアアイロン使ってるしナチュラルヘアの方が少ないんじゃないの」と言いたくなる方もいるとは思うんですが、抑圧と差別の歴史が背景にあるのとないのとでは議論の出発点から違うのでそんなに単純に比較できるものではありません。